ISO 50001は、エネルギー使用に関するマネジメントシステム(EnMS)の国際規格である。マネジメントシステムの規格には、品質管理システムのISO 9001(QMS)や環境管理システムのISO 14001(EMS)などもある。ISO 50001は2011年6月に発行、日本でJIS化されたのは2011年10月である。
ISO 14001は、「環境側面」全般を対象とした、環境負荷低減や環境に配慮した事業活動などのための改善を継続するマネジメントの枠組みである。一方、ISO 50001は、電気・燃料・蒸気・熱・圧縮空気などのエネルギーを対象とする。また、ISO 14001と違って、マネジメントした結果としてのエネルギー使用量や使用効率など、エネルギーパフォーマンスの改善も求めている。ただし、ISO 14001もISO 50001も、PDCAアプローチ、つまりPlan(計画)-Do(実施)-Check(点検)-Act(処置・改善)のサイクルで改善を続けるというアプローチは同じである。
ISO 50001は、ISO 14001などに比べると発行してからの期間が短いこともあって、認証件数は少ない(図表)。認証件数が少ないのは、「『ISO 14001とISO 50001の要求事項の違いがよく分からない』『省エネ法で決め細かな省エネ管理をすることが義務付けられているので必要性を感じない』『要求事項は優れているのかもしれないが、具体的な方法論がよく分からない』『工場の省エネはやりつくしている。ISO 50001の要求事項をみると、工場レベルや中小規模企業向けの要求事項にみえる』」(※1)という声があるように、認証取得のメリットが見えにくいことも背景にあるといわれている。

しかし、ISO 50001は、内容や目的からみて日本の省エネ法(エネルギーの使用の合理化に関する法律)と整合する部分が多く、省エネ法に基づいてエネルギーを管理している組織にとっては、ISO 50001がエネルギー効率向上のツールになるといわれる。すでにISO 14001を取得している組織であれば、その活動と統合した管理体系を構築することも可能となる。また、国際的には、温室効果ガスや水の使用量など、環境負荷低減に関する活動を数値で開示し、その数値が検証されることを求める方向に動いている(※2)。いわゆるMRV(Measurement・Reporting・Verification:計測・報告・検証)である。この点からも、ISO 50001のようにパフォーマンス改善を求める枠組みは有効に働こう。
経済産業省の資源エネルギー庁ではISO 50001の普及啓発活動として、資源エネルギー庁の委託事業の競争入札の際の加点要素項目にISO 50001の認証取得の有無を追加している(※3)。また、ISO 50001の解説や導入事例を紹介する専用のウェブサイト「ISO50001(エネルギーマネジメントシステム)」も公開されている。
(※1)アイソス 12 2012 December No.181 『特集2 ISO 50001によるエネルギーマネジメントの新方法論』 p.46
(※2)世界の企業に温室効果ガスの排出量などの開示を求める機関投資家の活動「CDP」など。
(※3)資源エネルギー庁 普及促進のための制度 「資源エネルギー庁の委託事業(※)の競争入札の際、加点要素項目として、ISO 50001の認証取得の有無を追加」 ※総合評価落札方式の委託事業(調査、広報、研究開発等)
(2012年11月30日掲載)
(2014年7月28日更新)
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