「都民の健康と安全を確保する環境に関する条例」(東京都環境確保条例)は、東京都公害防止条例を全面改定し、2000年に公布された。これにより、従来の「公害対策」(自動車の排ガス規制や工場の土壌汚染など)に加え、東京都における「環境負荷低減」(温室効果ガス排出量の削減)が本格的に進められることとなった。
同条例のもと、2002年度から「地球温暖化対策計画書制度」が施行され、年間エネルギー消費量が1,500kL(原油換算)以上の事業所を対象に、温室効果ガスの排出量の報告と自主的な削減目標設定が義務付けられることとなった。2005年度からは、都が取組みに指導・助言し、評価・公表できる仕組みも追加された。
さらに2007年、東京都は「2020年までに東京の温室効果ガス排出量を2000年比で25%削減する」という東京都気候変動対策方針を打ち出し、その実現のために同条例を改定、2010年度より「温室効果ガス排出量総量削減義務と排出量取引制度」(東京都排出量取引制度)を導入することを決定した。
東京都排出量取引制度は、年間エネルギー消費量が1,500kL(原油換算)以上の都内約1,400事業所を対象とし、第1計画期間(2010~2014年度)の平均値で、基準排出量比6%または8%削減を達成することを義務付けている。達成のためには、他事業所における超過削減量や、中小企業における削減量などのクレジットを利用することも可能となっており、達成できない場合には罰金などの罰則規定も設けられている。2015年度からスタートする第2計画期間(2015~2019年度)においては、削減義務率が15%または17%に強化され、新たに低炭素電力・熱の選択の仕組み等が導入される(図表1参照)(※1)。
同制度は、世界初の都市型の排出量取引制度として国際的にも注目されている。東京都は、義務的な排出量取引制度を実施済または実施を約束している政府または公的機関のみが参加することのできるICAP(※2)に所属(日本政府はオブザーバー参加)し、国際的な情報発信にも積極的である。国内においても、日本政府の排出量取引制度導入に向けた提言や他自治体への情報共有を進める等、排出量取引制度普及に向けリーダーシップを発揮している。2011年、埼玉県においても「目標設定型排出量取引制度」が導入されクレジットの相互利用など連携が図られている(※3)。
(※1)東京都環境局 気候変動対策 総量削減義務と排出量取引制度
(※2)International Carbon Action Partnership:国際炭素行動パートナーシップ。2014年1月時点における参加者はEU、米加州政府、豪、ニュージーランド等30主体。
(※3)東京都環境局「首都圏キャップ&トレード制度に向けた東京都と埼玉県の連携について」(平成23年5月)
(2009年8月21日掲載)
(2012年7月31日更新)
(2014年7月24日更新)
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