地球環境に負荷を及ぼす物質(硫黄酸化物(SOX)、二酸化炭素(CO2)等)を排出する権利(排出権)を取引すること(※1)。規制を守るための柔軟的手法として用いられる。規制のみにより排出量制限を行う場合と比較すると、排出者は経済合理的に排出削減を進めることができ、また規制当局によるモニタリングコストが軽減される等、経済的に排出量を減少させることができる手法とされている。(1)キャップ&トレード方式と、(2)ベースライン&クレジット方式がある。
(1)キャップ&トレード方式
各排出者に排出枠(キャップ)を割り当て、実際の排出量が排出枠を下回った排出者は、排出枠を上回った排出者に余剰分を売却(トレード)することができる方式のこと。例えば、CO2を10,000トン排出しているA社とB社に、9,000トンの排出枠が割り当てられたとする(図表1[1])。A社は排出量を8,000トンに削減し、B社は10,000トンのままであった場合(図表1[2])、B社はA社から余剰枠1,000トン分を購入することで、両者とも排出量を排出枠以下に低減したとみなされる(図表1[3])。
同方式は、EU、東京都(東京都環境確保条例)、米国北東部などで実施されている。法的規制(罰金等)や環境税等と比較すると、全体の排出量を確実に削減できるというメリットがある。また、排出者は自助努力で排出削減を行うか余剰枠を購入するか選択肢が広がるため、経済合理的な方法を柔軟に選択することができる。一方で、キャップを公平に割り当てることが課題とされている。
(2)ベースライン&クレジット方式
排出量を削減する事業が実施された場合、その事業が実施されなかった場合(ベースライン)と比較して、削減された分(クレジット)を取引できる方式のこと。例えば、あるプロジェクトが実施されなかった場合のCO2排出量を5,000トンとして、プロジェクトを実施したことにより排出量が3,500トンに削減された場合、その差分の1,500トンをクレジットとして取引することができる(図表2)。
キャップによる規制ができない地域等で排出削減を進めたい場合、キャップによる規制のある地域の排出者がクレジットを購入することで、当該地域の排出削減を進めることができる。一方で、ベースラインの算出方法やクレジット認証に関する体制・基準づくり等が課題とされている。国連が認証するCDM/JI(※2)制度、日本国政府が認証する国内クレジット制度、民間企業が独自で認証するVER(※3)等がある。
京都議定書では、EUや日本等の先進国に排出枠が割り当てられており、国家間で国際排出量取引を行うことができる(キャップ&トレード)。また、途上国(先進国の場合もある)で排出量削減事業が実施された場合、その削減分が国連で認証されればクレジットとして先進国に売却することができるCDM(先進国の場合はJI)制度がある(ベースライン&クレジット)。
(※1)そもそも汚染物質を排出する「権利」などがありえるのか、という考え方から、「排出権」という言葉を避け、排出量取引、排出枠取引などを用いる場合もある。
(※2)Clean Development Mechanism/Joint Implementation
(※3)Verified Emission Reduction
(2011年8月1日掲載)
(2012年7月31日更新)
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