2020年11月10日
サマリー
◆TCFDが最終報告書において示した提言は、あくまで自主的な情報開示の枠組みであるものの、今や気候変動に関連する情報開示の標準になりつつある。特に、日本からの賛同機関数は2020年9月現在、世界最多であるとともに、開示の質も年々充実してきており、開示情報は投資家とのエンゲージメントなどにおいて活用が進んでいる。
◆その一方、タスクフォースが当初から目指している、「気候関連のリスクと機会のより正確なプライシングと、資本のより効率的な配分」を達成するまでの道のりは険しいとみられる。理由として、①開示情報の企業間の比較可能性が低いこと、②金融市場で資産価格が決定される時間軸と気候関連リスクが顕在化する時間軸に大きな差があることが挙げられる。
◆比較可能性を向上するためには、TCFD提言をベースとしながらも、CDSBフレームワークやSASBスタンダードなどと組み合わせて開示することが考えられる。また、気候変動のリスクが顕在化するまでの期間と、通常の金融経済・政治サイクルの時間軸の差(マーク・カーニー氏は「ホライゾンの悲劇」と形容している)を克服するには、企業・投資家だけでなく、政策当局も含め、パリ協定と整合的な長期目標に対し、実現の道筋と実現へのコミットメントを示すことが求められるだろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
-
英中銀が予定する気候関連ストレステストの概要
移行リスク・物理的リスクを考慮し、金融システムに対する長期的な影響を評価
2020年09月08日
-
オランダ銀行が実施したストレステストの概要
中央銀行としては世界初の気候関連ストレステストを実施
2020年07月27日
同じカテゴリの最新レポート
-
EUサステナ開示規制の域外適用見直しへ
米国とEUは関税合意の一部としてサステナ開示の域外適用を見直す
2025年09月12日
-
機械学習による有価証券報告書(2025年3月期)の人的資本開示の可視化
経営戦略と人事戦略の連動や、指標及び目標の設定に課題
2025年08月01日
-
サステナビリティWGの中間論点整理の公表
2027年3月期から順に有価証券報告書でのサステナビリティ開示拡充
2025年07月28日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
-
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
-
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
-
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
2025年ジャクソンホール会議の注目点は?
①利下げ再開の可能性示唆、②金融政策枠組みの見直し
2025年08月20日
既に始まった生成AIによる仕事の地殻変動
静かに進む、ホワイトカラー雇用の構造変化
2025年08月04日
米雇用者数の下方修正をいかに解釈するか
2025年7月米雇用統計:素直に雇用環境の悪化を警戒すべき
2025年08月04日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日