2017年05月10日
サマリー
◆政府は東日本大震災と原子力事故を契機として、2013年から電力システム改革に取り組んでいる。昨春(2016年4月)は第2弾改革として電力小売の全面自由化が実施され、約400の小売電気事業者が全国各地で事業を展開している。
◆他方、この間、国連が主導する気候変動対策で国際合意が進捗し、ポスト京都議定書となる「パリ協定」が採択(2015年12月)され、発効(2016年11月)した。締約国は2030年頃の温室効果ガス(GHG)排出量の削減目標を国連に提出し、その達成に向けた国内計画を策定して対策に取り組んでいる。
◆日本の国内計画では、GHG排出量の約4割を占める電力由来の二酸化炭素(CO2)排出量を削減するため、小売電気事業者に対して販売電力量に占める非化石電源(再生可能エネルギー電気と原子力発電)の割合を2030年度に44%以上にすることを求めている。
◆電力システム改革ではこの措置の実効性を高めるため、非化石電源から“非化石価値”を分離して証書化し、実電気と分けて取引きする「非化石価値取引市場」を既設の卸電力取引所の下に2017年度中に創設することにした。
◆非化石価値取引市場が小売電気事業者の非化石電源比率を高める手段として活用されることが期待されるが、他の効果としては、非化石価値を選好する需要家が証書代金分の対価を上乗せ負担することを通して他の需要家の賦課金負担が軽減されることが考えられる。また、非FIT発電事業者が市場で非化石価値を売却することができるようになるため、実電気の売電収入と合わせた投資回収モデルの検討が可能となる。
◆今後、電源構成は非化石電源の導入状況により大きく変動する可能性があるが、仮に非化石価値取引市場に困難な問題が生じたとしても、2030年度のあるべき電源構成を化石電源にシフトし、パリ協定の削減目標を引き下げるという安易な解決策はなんとしても回避したい。目標を必達する覚悟で、政府、事業者、国民が知恵を出し合い、電力システム改革と地球温暖化対策を両立させるための非化石価値取引市場へ発展させていくことが望まれる。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
同じカテゴリの最新レポート
-
「インパクトを考慮した投資」は「インパクト投資」か?
両者は別物だが、共にインパクトを生むことに変わりはない
2025年10月09日
-
生活費危機の時代に重要な「生活賃金」
多様なステークホルダーとの「賃金をめぐる対話」が企業の課題に
2025年09月18日
-
EUサステナ開示規制の域外適用見直しへ
米国とEUは関税合意の一部としてサステナ開示の域外適用を見直す
2025年09月12日
最新のレポート・コラム
-
働く低所得者の負担を軽減する「社会保険料還付付き税額控除」の提案
追加財政負担なしで課税最低限(年収の壁)178万円達成も可能
2025年10月10日
-
ゼロクリックで完結する情報検索
AI検索サービスがもたらす情報発信戦略と収益モデルの新たな課題
2025年10月10日
-
「インパクトを考慮した投資」は「インパクト投資」か?
両者は別物だが、共にインパクトを生むことに変わりはない
2025年10月09日
-
一部の地域は企業関連で改善の兆し~物価高・海外動向・新政権の政策を注視
2025年10月 大和地域AI(地域愛)インデックス
2025年10月08日
-
政治不安が続くアジア新興国、脆弱な中間層に配慮した政策を
2025年10月10日
よく読まれているリサーチレポート
-
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
-
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
-
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
-
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
第226回日本経済予測(改訂版)
低成長・物価高の日本が取るべき政策とは?①格差問題、②財政リスク、を検証
2025年09月08日
聖域なきスタンダード市場改革議論
上場維持基準などの見直しにも言及
2025年09月22日
今後の証券業界において求められる不正アクセス等防止策とは
金融庁と日本証券業協会がインターネット取引の新指針案を公表
2025年09月01日
日本経済見通し:2025年9月
トランプ関税で対米輸出が大幅減、製造業や賃上げ等への影響は?
2025年09月25日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日