1. トップ
  2. レポート・コラム
  3. 金融資本市場分析
  4. ESG投資
  5. 過疎自治体が国家戦略特区に指定される

過疎自治体が国家戦略特区に指定される

2014年04月14日

大澤 秀一

サマリー

第4回国家戦略特別区域諮問会議(議長;安倍晋三首相。以下「諮問会議」という。)は3月28日、東京圏、関西圏、新潟県新潟市、兵庫県養父(やぶ)市、福岡県福岡市、沖縄県、の6区域を国家戦略特別区域に指定した(図表1)。正式には、関係する自治体との協議を経て、4月下旬にも区域指定の政令が閣議決定される。

図表1 国家戦略特別区域に指定された区域と【政策テーマ】

区域の経済規模からみてかなり意外だったのは、小規模自治体の養父市が選ばれたことであろう。兵庫県但馬地域に位置する養父市は、2004年4月1日、4町が合併して成立した。古くから姫路方面と山陰地方を結ぶ交通の要衝として栄え、スズや銅などを産出する明延鉱山(1987年閉山)で賑わった時代もあった。しかしながら、近年は少子高齢化が加速度的に進み、人口は合併から10年間で約15%減少し、25,811人(2014年3月末日)(※1)となり、高齢者比率は約10年間で約5ポイント上昇し、約35%(2014年2月1日)(※2)に達する過疎地域である。このため、地域経済も縮小傾向にあり、実質市内総生産は10年間で約29%減少し、786億円(平成24年度(※3))となった。


このような厳しい状況にある養父市が特区の【中山間地農業の改革拠点】として指定されたポイントは、岩盤規制の一つに挙げられている「農業委員会の改革」をテコに過疎地域の経済活性化モデルの構築に取り組む首長のやる気と参画事業者の意気込みであろう。規制改革の詳細や地域計画等は夏頃までに明らかにされる模様だが、応募時の提案書(※4)や公開ヒアリング資料(※5)から特区にふさわしい先進性と革新性が見えてくる。


特区事業を行う特徴的な主体の一つは、自治体が全額出資して設立される地域公共会社(EPL)である。聞き慣れない名称だが、欧州などで見られる新しい官民協働体がモデルになっている。地域に民間事業者がそもそも存在せず、このままでは参入が期待できない過疎自治体における国内初の取り組みとなる。養父市のEPLは地域の経済再生および活性化に関する農業生産販売事業、地域企業の設立事業や出資事業、行政業務アウトソーシング受託事業等を行う。


養父市は、EPLが農地の賃借、所有(売買)を自由に行えるよう、農地流動化に関する農業委員会の権限を市に移譲する規制改革を諮問会議に求めている。農業委員会の改革については、国が県農地中間管理機構(いわば「農地集積バンク」)を新たに作り、農業委員会等と連携しながら農地の集約・集積を目指す「農地中間管理事業の推進に関する法律」および「農業の構造改革を推進するための農業経営基盤強化促進法等の一部を改正する等の法律」(※6)が昨年成立し、本年4月から一部が施行されている。しかしながら、養父市が求めているのは、国が考える平地の大規模な農地を前提にしたものではなく、中山間地域の条件不利地域に適した農地流動化システムである。農業委員会そのものの維持が困難になってきている過疎地域においては、基礎自治体(市町村)が農地流動化に関する権限を持ち、中間管理機構の役割をも併せ持つことは、効率的な土地利用を実現していく上で必要なことと思われる。


農業をはじめ、新たな産業を興していくには労働力の確保が大きな課題となるが、過疎自治体では域外からの若者等の流入は期待しにくい。このため養父市は、労働意欲が盛んな高齢者の活用策として、公益社団法人養父市シルバー人材センターにおける労働時間制限の撤廃や継続労働時間の規制緩和も諮問会議に求めている。シルバー人材センターの労働時間が制約されている理由の一つには、高齢者が働き過ぎると高齢でない人の雇用を阻害するということがあるが、そもそも人がいない過疎自治体では意味が薄れてしまっているというのが論拠である。既存のシルバー人材センターをうまく活用できれば効率的な課題解決策となろう。


過疎市町村数は全国の市町村数(特別区を除く)の約45%を占める(※7)。また、中山間地域は耕地面積の約40%、総農家数の約44%を占めており(※8)、養父市の特区事業は全国的な波及効果が期待できる。養父市は既にEPLを設立(※9)して一部の事業活動を始めている。外部人材の登用や農業委員会との役割分担、民間事業者や大学等との連携事業にもほぼ見通しが立っているという。養父市の特区事業が岩盤規制の突破口となり、全国の他の過疎自治体や中山間地の経済発展に結び付いていくことに期待したい。


(※1)「養父市の人口と世帯」養父市ウェブサイト
(※2)「高齢者保健福祉関係資料」兵庫県ウェブサイト
(※3)「平成24年度市町内GDP速報(市町内総生産速報値)」兵庫県ウェブサイト(2014年3月27日)
(※4)「国家戦略特区事業提案 高齢者雇用による農業等新産業創出事業提案 ━兵庫県養父市におけるEPLスキームによる取組から━ 兵庫県養父市」(平成25年8月28日)首相官邸ウェブサイト
(※5)「国家戦略特区ワーキンググループ 提案に関するヒアリング」(平成25年9月6日)首相官邸ウェブサイト
(※6)「農地中間管理機構について」農林水産省ウェブサイト(平成26年4月1日)
(※7)「過疎のお話」全国過疎地域自立促進連盟ウェブサイト
(※8)「中山間地域とは」農林水産省農村振興局ウェブサイト
(※9)「やぶパートナーズ株式会社」ウェブサイト

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

執筆者のおすすめレポート