「日本の気候変動とその影響(2012年度版)」からの示唆

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2013年04月19日

サマリー

2013年4月12日、環境省は2011年度(平成23年度)の温室効果ガス排出量(確定値)を公表した(※1)。温室効果ガスの総排出量(確定値)は、13億800万トンで、基準年比3.7%の増加となっている。しかし、京都議定書に基づく吸収源活動の排出・吸収量の約5,210万トン(基準年総排出量の約4.1%に相当)と、京都メカニズムクレジットも加味すると、京都議定書第一約束期間の4カ年平均(2008~2011年度)で基準年比-9.2%となる。


ポスト京都議定書の枠組み作りが不透明なことや、ここ数年の金融危機などから、地球温暖化に対する関心が低下している印象もある。しかし、さまざまな自然システムが気候変動による影響を受けつつあるとして、同日、文部科学省、気象庁、環境省は「日本の気候変動とその影響(2012年度版)」というレポートを公表した(※2)。これは、日本を対象とした気候変動の観測・予測・影響評価に関する内容で、レポートの概要をまとめたパンフレットもあわせて公表している。

「日本の気候変動とその影響(2012年度版)」のポイント
  1. 観測結果(第2章第1節)
    日本の平均気温は長期的に上昇しており、猛暑日や熱帯夜の日数も増加している。また、大雨の日数や強い雨の頻度は増加傾向にある。
  2. 将来予測(第2章第2節)
    日本の平均気温はさらに上昇するとともに、その上昇幅は世界平均を上回ると予測される。また、強い雨の頻度の増加が予測される一方で、無降水日数もほとんどの地域で増加すると予測されている。
  3. 影響(第3章)
    前回の統合レポートを公表した後の研究調査の進歩により、気候変動の影響の可能性のある様々な事象が明らかになるとともに、水資源・水災害や自然生態系等において、より具体的な将来の影響評価についてまとめることが可能となった。具体的には以下のような影響が将来的に生じることが懸念される。
    1. 水資源・水災害:渇水リスクの増加、河川や湖における水質悪化の可能性、洪水・深層崩壊の危険性の増大、高波・高潮リスクの増加
    2. 自然生態系:ニホンジカ等の野生生物の生息域の拡大とそれに伴う食害・生態系への悪影響の拡大、サンゴ礁の消滅の危険性
    3. 農林水産業:水稲の品質低下、畜産・水産業への影響
    4. 健康:感染症媒介蚊の生息域の拡大、熱中症の増加

  4. 適応(第4章)
    気候変動による人間社会等への影響をできるだけ小さくする「適応」について、日本における現状と課題、今後の取組について解説した。


また、地球温暖化問題に対して、よく出てくる質問「地球温暖化は、太陽活動(黒点数の増減やフレアー)の影響が大きいのではないか」、「気温上昇が停滞していることから、地球温暖化は止まったのではないか」、「IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の評価報告書における『ほぼ確実』は、どのくらいの発生可能性か」、などに対して、コラム形式で説明している。


なお、極端な現象の変化に対する可能性や確信度は、データの質・量や研究の有無、地域などの違いに依存しているとしているため、これらの点に注意して読む必要がある。例えば、寒い昼と夜の日数の減少・暑い昼と夜の日数の増加が観測されており、この変化の「可能性は非常に高い」。一方、熱帯低気圧の強度や発生数などの長期的な増加が観測されているが、過去と現在の観測能力に違いがあるため、この変化の「確信度は低い」、としている。


当レポートは、「国や地方の行政機関、国民が気候変動への対策を考える際に役立つ最新の科学的知見を提供すること」を目的としている。しかし、ある程度の前提知識や、それなりの関心を持っていないとレポート全体を読み通すのは難しいだろう。今週は、「科学技術について広く一般の方々に理解と関心を深めていただき、日本の科学技術の振興を図る」ことを目的とした「科学技術週間(※3)」である。広く一般に理解や関心を持ってもらうためには、さらにわかりやすい情報の提供が必要であろう。


参考レポート: ESGニュース 2012年12月3日 地球温暖化対策の目標と法案

(※1)環境省 報道発表資料 平成25年4月12日 「2011年度(平成23年度)の温室効果ガス排出量(確定値)について(お知らせ)
(※2)文部科学省 平成25年度の報道発表 平成25年4月12日「気候変動の観測・予測・影響評価に関する統合レポート『日本の気候変動とその影響(2012年度版)』の公表について
(※3)平成25年は、4月15日(月)~21日(日)

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