2012年12月28日
サマリー
欧州委員会(the European Union、以下EU)は2012年12月12日に、欧州の会社法改正と企業ガバナンスの改善に向けた行動計画を採択した(※1)。EUでは、企業の競争力と持続可能性の確保を目指して、会社制度の見直しを進めてきた。過去2年の間EUでは、改正草案の公表とそれに対するパブリック・コメントの募集等を通じて、多くの意見を企業関連の制度改正に反映させる努力が続けられてきた。株主を企業経営にいかに関与させるか、また企業情報の透明性をいかに向上させるかを焦点として、企業、投資家、労働者、消費者など様々な立場からの議論が戦わされてきた成果が今回公表された行動計画である。
行動計画では、透明性の向上、株主による長期的な経営関与、会社法改正の三つを柱として、それぞれいくつかの論点を掲げている。
透明性については、取締役構成やリスク管理に関する情報開示の改善や、企業ガバナンス開示の改善があげられている。また、機関投資家が、投資先企業の株主総会でどのように議決権を行使したか開示することもうたわれており、企業ガバナンスにおける株主の責務についても検討されている。
株主による長期的な経営関与については、既に拙稿(※2)で指摘したように、経営者報酬に関する情報の透明性を高めるとともに、報酬決定プロセスに株主を関わらせる、いわゆるSAY ON PAYの導入が中心的なテーマになっている。経営に対する株主の関与を一層強化するために、株主間の協調を容易ならしめる制度の導入も検討される。
会社法改正では、クロス・ボーダーに行われる会社組織の再編をどのように規律するかが、大きな論点だ。
行動計画で示された見直しの方向については、必ずしも広い賛同が得られているわけではない。パブリック・コメントには、様々な論点で対立する見解が表明されている。企業ガバナンスの改善が必要であるという点では共通の理解があったとしても、各論に至れば、議論は錯綜するだろう。今後のタイムテーブルでは、多くの事項について2013年内で目途を付ける方針の様であるが、順調に進捗するか推移に注目したい。
(※1) “Commission plans to modernise European company law and corporate governance”
(※2)「企業ガバナンス改革の国際動向~引き続き経営者報酬問題へ高い関心~」(『大和総研調査季報』 2012年夏季号(Vol.7))
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
米GDP 前期比年率+2.8%と加速
2024年4-6月期米GDP:内需主導での堅調さを維持
2024年07月26日
-
監査・ガバナンス強化へ回帰する英国
昨年撤回した監査強化方針を復活し、ガバナンス・コードも厳格化へ
2024年07月25日
-
女性がキャリアを築ける職場ほど、子どもを持ちやすい
健保組合ごとの被保険者・被扶養者の出生率と、その要因の多変量解析
2024年07月24日
-
GX経済移行債に期待されるインパクトレポーティング
~GXの理解醸成促進に向けて~『大和総研調査季報』2024年夏季号(Vol.55)掲載
2024年07月24日
-
盛り上がりに欠ける英国の政権交代
2024年07月26日
よく読まれているリサーチレポート
-
「国債買入減額+利上げ」だけで長期金利は2%超えか
シナリオ別に見た日銀の国債買入減額による長期金利への影響試算
2024年06月12日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
-
第221回日本経済予測(改訂版)
賃上げ・物価高の先にある経済の姿と課題は?①賃上げ効果、②貿易デジタル赤字、③トランプリスク、を検証
2024年06月10日
-
「事業性融資の推進等に関する法律案」概要
事業性に着目した企業価値担保権の創設
2024年05月30日
-
バーゼルⅢ最終化による自己資本比率への影響の試算
標準的手法採用行では、自己資本比率が1%pt程度低下する可能性
2024年02月02日
「国債買入減額+利上げ」だけで長期金利は2%超えか
シナリオ別に見た日銀の国債買入減額による長期金利への影響試算
2024年06月12日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
第221回日本経済予測(改訂版)
賃上げ・物価高の先にある経済の姿と課題は?①賃上げ効果、②貿易デジタル赤字、③トランプリスク、を検証
2024年06月10日
「事業性融資の推進等に関する法律案」概要
事業性に着目した企業価値担保権の創設
2024年05月30日
バーゼルⅢ最終化による自己資本比率への影響の試算
標準的手法採用行では、自己資本比率が1%pt程度低下する可能性
2024年02月02日