国際債券投資ベンチマーク再考

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サマリー

ノルウェー政府年金基金は、情報開示に積極的な数少ない政府系ファンドの一つだ。巨額の資金を運用するに際して様々な新しい手法を導入し、欧米の年金基金や新興国の政府系ファンド等のモデルになっている。そのノルウェー政府年金基金が国際債券投資のベンチマークを新たにした(※1)。債券パッシブ運用では、保有ポートフォリオをベンチマークの内容に近づけていくのが普通であるので、ベンチマークを変えることは、投資対象を変えることを意味する。ノルウェー政府年金基金の新たな国際債券投資ベンチマークは、国別のGDP加重で債券投資のアロケーションを行なうというものである。

通常、ベンチマークは投資対象資産の価格を株式分割等の権利調整を行いながら平均したり、時価総額加重したりして算出する。株価指数でいえば、前者の例は、日経平均株価指数であり、後者の例は東証株価指数(TOPIX)である。債券投資では、時価総額加重が一般的であり、ある発行体(国、地方自治体や会社)の発行する債券の量が多ければ多いほど、ベンチマークに占める構成比が大きくなる。そのため投資家のポートフォリオには、借金の大きな発行体の債券が多くなるわけである。欧州ソブリン危機では、このような時価総額加重により債券パッシブ運用の弱点を露呈することになった。発行残高に応じて保有する各国国債の価値が大きく失われ、投資家の資産を傷つけた。このため、時価総額加重ではない新たなベンチマークが模索されることになった。GDP加重債券ベンチマークもその一つであり、2009年以降、いくつか目にするようになったが、あまり使われているようには見えなかった。

このような中でノルウェー政府年金基金は、GDP加重債券ベンチマークの採用を決め、実際の投資に反映させている。新興国は国債残高が先進国に比べて小さいので、時価総額加重ベンチマークでは、新興国のシェアは小さいが、GDPでみると新興国のシェアが相対的に大きくなる。このため、ノルウェー政府年金基金は、新興国が発行する国債を大量に購入することとなった。

ベンチマークには、資産価格の平均額を基礎に算出したり時価総額加重を用いたりする以外にも様々あり、利用者のニーズに合わせたカスタム・ベンチマークが作られることも珍しくない。とはいえどのようなベンチマークでも、その内容を再現できなければ、そのベンチマークは絵に描いた餅になる。パフォーマンスがベンチマークに追随するよう、ポートフォリオを再現することが可能でなければならない。この点でGDP加重型は、大きな欠陥がある。GDP加重で債券ポートフォリオを作ろうとしても、購入できる債券が十分にはない場合があるということだ。そのため、GDP加重債券ベンチマークでは、GDPが大きいが発行国債が少ない国をベンチマークから除くという調整を行っているものもある。再現可能なベンチマークにするには、GDP加重という算出方法を一部緩めることも行われるのである。

実際の投資でもこれまでほとんど韓国国債を購入していなかったノルウェー政府年金基金が、ベンチマーク変更後には、韓国国債の最大の投資家になったという(※2)。巨大な投資家による投資方針の変更は、大きな変化を惹き起こすことがある。GDP加重債券ベンチマークの採用が広まれば、新興国国債への少ない投資機会を投資家が奪い合うことになるため、市場の価格形成に影響を及ぼす可能性があろう。こうした動きに先行した投資家にとっては、後追いの市場参加者が増えれば、有利な売却機会を得られるかもしれない。

国際債券投資で時価総額加重ベンチマークを採用すれば、負債の大きな国に投資することになってしまう。負債比率の高さは一般に信用状態の悪さを表す。逆に、負債が少なく信用状態が良好でありながら金利が高いならば、投資対象になり得ることは当然である。もっともそのような機会があれば裁定が働き、有利性は解消するはずであるとも考えられる。また新興国においては、先進国とは異なり小さからぬ政治リスクが存在する恐れもあり、破滅的な変化が生じる可能性も軽視できない。欧州ソブリン危機は、投資家の目を新興国国債へと向けたが、果たしてそれは宝の山であろうか。

時価総額加重ベンチマークもGDP加重ベンチマークも、それぞれ長所があり、短所がある。考え方は様々であろうが、筆者には、再現可能性に難点のあるGDP加重ベンチマークの採用は難しいのではないかと思える。


(※1)「Norge's Banks letter to the Ministry of Finance」(2012年2月1日)
(※2)韓国中央日報日本語版(2012年9月7日)

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