「生物多様性国家戦略2012-2020」閣議決定

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2012年10月02日

サマリー

2012年9月28日、生物多様性の保全と持続可能な利用に関する政府の基本的な計画となる「生物多様性国家戦略2012-2020」が閣議決定された(※1)。これは、2010年に開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)で採択された、世界的な目標である愛知目標(※2)に対応するためのものである。愛知目標は、2011年以降の中長期的な目標として「2050年までに、生態系サービスを維持し、健全な地球を維持し全ての人に必要な利益を提供しつつ、生物多様性が評価され、保全され、回復され、賢明に利用される」ことを合意した。

またCOP10では、遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS:Access and Benefit Sharing)のルールとなる名古屋議定書も採択された。

今回の「生物多様性国家戦略2012-2020」では、2020年度までの重点施策となる5つの基本戦略、愛知目標の達成に向けた日本のロードマップ(目標年次を含めた13の国別目標、48の主要行動目標、国別目標の達成状況を測るための81指標)、今後5年間の政府の行動計画(約700の具体的施策、50の数値目標)を提示している。


5つの基本戦略 2020年度までの重点施策
 1 生物多様性を社会に浸透させる
 2 地域における人と自然の関係を見直し、再構築する
 3 森・里・川・海のつながりを確保する
 4 地球規模の視野を持って行動する
 5 科学的基盤を強化し、政策に結びつける



名古屋議定書は50カ国の批准・承認等が得られた日から90日後に発効することになっているが、2012年9月末時点で批准・承認国が6カ国のため、まだ発効していない(署名済みは92カ国)(※3)。日本は名古屋議定書に署名はしたが批准はしていないため、環境省では名古屋議定書の早期締結を目指し、「名古屋議定書に係る国内措置のあり方検討会」(※4)を立ち上げた。日本のビジネスチャンスやイノベーションを生む研究の阻害にならず、かつ国際的に合理的な説明が可能な国内の措置ができるように、種苗、医薬品、食品等の産業界や、遺伝資源を使った研究を行う学術界等による話し合いが行われている。

また、愛知目標では「2020年までに、生物多様性の価値を人々が認識する」が掲げられているが、日本においては「生物多様性」そのものの認知度が高くない(図表)。そのため環境省では、生物多様性の価値を理解してもらうために、「生物多様性の経済的価値の評価に関する検討会」(※5)も立ち上げている。これは生物多様性や生態系がもたらす多様な恵み(生態系サービス(※6))の持つ価値を、客観的でわかりやすい指標である「経済的価値」で評価するものである。検討会では「奄美群島を新規に国立公園に指定することで保全される生物多様性の価値」と「全国的なシカの食害対策の実施により保全される生物多様性の価値」を対象にしている。

図表 生物多様性に関する認知度
図表 生物多様性に関する認知度
(注)「生物多様性国家戦略」「愛知目標」は、言葉ではなく内容の認知度についての設問
(出所)内閣府 世論調査報告書 平成24年6月調査「環境問題に関する世論調査」を基に大和総研作成
 

「生物多様性国家戦略2012-2020」は、2012年10月8~19日にインドのハイデラバードにおいて開催される生物多様性条約第11回締約国会議(COP11)で、報告される予定である。



(※1)環境省 報道発表資料 平成24年9月28日「『生物多様性国家戦略2012-2020』の閣議決定について(お知らせ)
(※2)環境省 報道発表資料 平成22年11月2日「生物多様性条約第10回締約国会議の結果(ハイレベルセグメント結果等を含む)について(お知らせ)
(※3)Convention on Biological Diversity “List of Parties
(※4)環境省 報道発表資料 平成24年9月5日「『名古屋議定書に係る国内措置のあり方検討会』の設置及び第1回の開催について
(※5)環境省 報道発表資料 平成24年9月13日「第1回生物多様性の経済的価値の評価に関する検討会の開催について(お知らせ)
(※6)「例えば、土壌形成・酸素の供給、水・食料・医薬品の原料・燃料、水の浄化・防災(洪水被害の軽減)・温室効果ガスの吸収、レジャー・芸術活動など。」 大和総研 ESG用語解説 「生物多様性

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