2012年06月15日
サマリー
現行の株主提案権は、1981年(昭和56年)商法改正で創設され、会社法に引き継がれており、30年間の積み重ねがある。1983年の株主総会から株主提案権の利用が始まったが、その制度の趣旨に合致した使われ方をしてきたか、はなはだ疑わしいだけでなく、むしろ制度を検討している段階から表明されてきた危惧の念が現実化した事例が少なくないように思える。
わが国における株主提案権の歴史は、1948年(昭和23年)に制定された証券取引法に基づく委任状勧誘規則に今の制度とは異なる株主提案権に関する規定が設けられたことに遡る。しかし、その後の法改正において株主による濫用の恐れが強いとして、これは早々に削除されてしまった。現行制度につながる株主提案権の検討は、1975年の法務省民事局参事官室による「会社法改正に関する問題点」の中で、この制度の採用の是非が問われたことから始まる。経済団体や証券・金融業界から寄せられた意見では、少数株主権として持株の数量要件を設定したり、行使時期の制限を設けたりすること、また提案できない事項等の明定が必要であるとする声があったようである。加えて、直截に濫用の危険が高いので導入に反対という実務家の意見や、実益がある改正とはいえないという意見も見られた。このように株主提案権導入に反対するものや、賛成であっても濫用の歯止めを掛けた上での条件付という意見もあったが、1978年には「株式会社の機関に関する改正試案」が出され、大枠で現行制度と同様の株主提案権の創設が商法改正の俎上にのることとなった。ここでも、株主提案権の使い方によっては、株主総会が政治・社会問題の討議の場になってしまうのではないかとの危惧が表明され、導入への反対論があったが、試案よりも持株数要件を引き上げることで法案が策定され、可決・成立へと至った。
濫用に一定の歯止めが設けられた株主提案権は、当初ほとんど利用されることは無かった。株主提案を受けた会社の数を見ると、1983年に1社、84年も1社 85年3社であった。93年以降は、10社台が続き、最近増加したといっても30社前後に落ち着いている。また、株主提案を受ける会社は、連続して受けることが多い。業種によっては、毎年のように株主提案を受ける会社もあるし、それ以外にも6年連続や4年連続で同一であろうと思われる提案者から提案を受けている会社がある。特定の会社に連続して株主提案が出されており、ほとんどの会社にとって実質的にはほぼ無関係の制度になっているといえよう。
株主提案を受けている会社にとっても、それが株主とのコミュニケーションを広げるツールになっているかは、評価が分かれよう。企業ガバナンスや経営者報酬開示に関する株主提案のように、可決されないまでも賛同する議決権数が多ければ、株主の全体的な意向の分布を知る契機となるだろう。また、企業が直面する経営リスクに関する株主提案に株主の多くが関心を寄せるのは、むしろ当然である。しかし、個人的動機に基づくかのような提案や多くの投資家には関心のない情報の開示を求める提案なども少なからずあり、それらへの賛成率は総じて低い。他の株主から見れば独りよがりともとらえられる提案が多いということと思われる。株主提案権制度の創設時に懸念されていた通り、株主共通の利益に適合するか疑わしい利用があるとすれば、それを制限する方法を検討してもいいのではないだろうか。

参考文献
・「昭和56年(1981)商法改正における株主提案権—立法過程の考察を中心に—」高倉史人(高岡法学第19巻第1=2合併号 2008年3月)
・「株主提案権—今後の株主総会運営についての一試論—」亀山孟司(政教研紀要 第16号 1992年1月)
わが国における株主提案権の歴史は、1948年(昭和23年)に制定された証券取引法に基づく委任状勧誘規則に今の制度とは異なる株主提案権に関する規定が設けられたことに遡る。しかし、その後の法改正において株主による濫用の恐れが強いとして、これは早々に削除されてしまった。現行制度につながる株主提案権の検討は、1975年の法務省民事局参事官室による「会社法改正に関する問題点」の中で、この制度の採用の是非が問われたことから始まる。経済団体や証券・金融業界から寄せられた意見では、少数株主権として持株の数量要件を設定したり、行使時期の制限を設けたりすること、また提案できない事項等の明定が必要であるとする声があったようである。加えて、直截に濫用の危険が高いので導入に反対という実務家の意見や、実益がある改正とはいえないという意見も見られた。このように株主提案権導入に反対するものや、賛成であっても濫用の歯止めを掛けた上での条件付という意見もあったが、1978年には「株式会社の機関に関する改正試案」が出され、大枠で現行制度と同様の株主提案権の創設が商法改正の俎上にのることとなった。ここでも、株主提案権の使い方によっては、株主総会が政治・社会問題の討議の場になってしまうのではないかとの危惧が表明され、導入への反対論があったが、試案よりも持株数要件を引き上げることで法案が策定され、可決・成立へと至った。
濫用に一定の歯止めが設けられた株主提案権は、当初ほとんど利用されることは無かった。株主提案を受けた会社の数を見ると、1983年に1社、84年も1社 85年3社であった。93年以降は、10社台が続き、最近増加したといっても30社前後に落ち着いている。また、株主提案を受ける会社は、連続して受けることが多い。業種によっては、毎年のように株主提案を受ける会社もあるし、それ以外にも6年連続や4年連続で同一であろうと思われる提案者から提案を受けている会社がある。特定の会社に連続して株主提案が出されており、ほとんどの会社にとって実質的にはほぼ無関係の制度になっているといえよう。
株主提案を受けている会社にとっても、それが株主とのコミュニケーションを広げるツールになっているかは、評価が分かれよう。企業ガバナンスや経営者報酬開示に関する株主提案のように、可決されないまでも賛同する議決権数が多ければ、株主の全体的な意向の分布を知る契機となるだろう。また、企業が直面する経営リスクに関する株主提案に株主の多くが関心を寄せるのは、むしろ当然である。しかし、個人的動機に基づくかのような提案や多くの投資家には関心のない情報の開示を求める提案なども少なからずあり、それらへの賛成率は総じて低い。他の株主から見れば独りよがりともとらえられる提案が多いということと思われる。株主提案権制度の創設時に懸念されていた通り、株主共通の利益に適合するか疑わしい利用があるとすれば、それを制限する方法を検討してもいいのではないだろうか。

参考文献
・「昭和56年(1981)商法改正における株主提案権—立法過程の考察を中心に—」高倉史人(高岡法学第19巻第1=2合併号 2008年3月)
・「株主提案権—今後の株主総会運営についての一試論—」亀山孟司(政教研紀要 第16号 1992年1月)
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