2012年01月27日
サマリー
2011年後半、スマートフォン(高機能携帯電話:スマホ)にインストール済みのアプリや後からインストールしたアプリ、無料の無線LAN接続サービスが、利用者に無断(※1)で利用状況やIDなどの情報を外部に送信していたという報道が国内外であった。2012年に入ってからも、記事閲覧ページや滞在時間、アプリ購入者の住所などの情報を自社、または外部に送信という報道が相次いでいる(図表1)。収集・送信を行った理由を不注意や不具合としている場合もあるが、意図的なものもある。スマホにはGPSなど自動的に(利用者が気づかずに)、位置情報や移動経路を計測する機能が組み込まれているものもあり、このようなスマホで撮影した写真をブログなどで公開すると、撮影した時の位置情報(緯度・経度)も公開される場合があることを知らない利用者もいる(※2)。
スマホはまた、ブログ・ツイッター・SNSなどソーシャルメディアを利用した、利用者の意識的な情報の発信機でもある。自分が購入・使用したモノ・サービスの感想や写真を、自分のための備忘録や友人とのコミュニケーションのためにソーシャルメディアで公開する行為は一般化しているが、実は世界中の不特定多数が見ることができるものである、という意識は薄いと思われる。
図表1 2012年1月以降に報道された無断送信例
(出所)各種報道資料より大和総研作成
このようにソーシャルメディアなどから生まれる、大量の非構造化データ(IT業界では「ビッグデータ」と呼ぶ)は、新たな情報セキュリティリスクを生む。PCが主流の時代から、掲示板に書き込んでいる情報などから匿名であるはずの個人が特定されたり、ウイルス感染でPC内のデータが流出したりすることはあった。しかしスマホから発信される情報はPCに比べ個人性が高い一方、ウイルスが仕組まれているアプリや、前述の報道のように利用者に無断で利用者情報を収集・送信する機能を持つアプリが、アプリストアや企業サイトで公開されており、アプリの情報セキュリティに関する信頼性が高いとはいえない。また若年層(10代から30代)のインターネット利用頻度は携帯電話から「毎日少なくとも1回は利用」する人が6割を超えており(図表2)、インターネット接続はモバイル端末からのみ、という利用者もいる。こうした利用者は、機器の操作やアプリの楽しみ方には精通していても、自分の情報をどう扱うか、どう扱われるかを知らない、新たな「情報弱者」となる可能性がある。
一方、企業には、小売・流通のみならず安全・安心(防災・防犯)、医療・健康、交通、エネルギー管理など、さまざまな分野でビッグデータを利用したいという動機がある。しかし、リアルな店舗で収集できなかった情報が、スマホや各種センサーという「技術」を使って収集できるということと、収集することとは同義ではない。無断送信したと報道された企業は、謝罪やサービスの停止・修正を行っている。ビッグデータを利用するアプリを作る企業も、そのアプリを利用する企業も、ビッグデータの収集・利用の目的や方法をITの「技術の問題」と矮小化して捉えるべきではないだろう。
図表2 インターネットの利用頻度(年齢階層別)
(出所)総務省 平成22年「通信利用動向調査(世帯編)」をもとに大和総研作成
(※1)無断ではなく、事前説明を示しているとする例もあるが、わかりづらいため実質的には利用者に「情報収集・発信」されることが理解されていない。
(※2)東京暮らしweb 消費生活アドバイス「スマートフォン等で撮影した写真をブログにアップすると撮影場所が特定されることがあるので注意しましょう。」
スマホはまた、ブログ・ツイッター・SNSなどソーシャルメディアを利用した、利用者の意識的な情報の発信機でもある。自分が購入・使用したモノ・サービスの感想や写真を、自分のための備忘録や友人とのコミュニケーションのためにソーシャルメディアで公開する行為は一般化しているが、実は世界中の不特定多数が見ることができるものである、という意識は薄いと思われる。
図表1 2012年1月以降に報道された無断送信例

(出所)各種報道資料より大和総研作成
このようにソーシャルメディアなどから生まれる、大量の非構造化データ(IT業界では「ビッグデータ」と呼ぶ)は、新たな情報セキュリティリスクを生む。PCが主流の時代から、掲示板に書き込んでいる情報などから匿名であるはずの個人が特定されたり、ウイルス感染でPC内のデータが流出したりすることはあった。しかしスマホから発信される情報はPCに比べ個人性が高い一方、ウイルスが仕組まれているアプリや、前述の報道のように利用者に無断で利用者情報を収集・送信する機能を持つアプリが、アプリストアや企業サイトで公開されており、アプリの情報セキュリティに関する信頼性が高いとはいえない。また若年層(10代から30代)のインターネット利用頻度は携帯電話から「毎日少なくとも1回は利用」する人が6割を超えており(図表2)、インターネット接続はモバイル端末からのみ、という利用者もいる。こうした利用者は、機器の操作やアプリの楽しみ方には精通していても、自分の情報をどう扱うか、どう扱われるかを知らない、新たな「情報弱者」となる可能性がある。
一方、企業には、小売・流通のみならず安全・安心(防災・防犯)、医療・健康、交通、エネルギー管理など、さまざまな分野でビッグデータを利用したいという動機がある。しかし、リアルな店舗で収集できなかった情報が、スマホや各種センサーという「技術」を使って収集できるということと、収集することとは同義ではない。無断送信したと報道された企業は、謝罪やサービスの停止・修正を行っている。ビッグデータを利用するアプリを作る企業も、そのアプリを利用する企業も、ビッグデータの収集・利用の目的や方法をITの「技術の問題」と矮小化して捉えるべきではないだろう。
図表2 インターネットの利用頻度(年齢階層別)

(出所)総務省 平成22年「通信利用動向調査(世帯編)」をもとに大和総研作成
(※1)無断ではなく、事前説明を示しているとする例もあるが、わかりづらいため実質的には利用者に「情報収集・発信」されることが理解されていない。
(※2)東京暮らしweb 消費生活アドバイス「スマートフォン等で撮影した写真をブログにアップすると撮影場所が特定されることがあるので注意しましょう。」
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