2011年06月01日
サマリー
今年の株主総会では、役員報酬や退職慰労金に関する議案がこれまで以上に投資家から厳しいチェックを受けることになると考えられる。
会社役員の報酬に対して投資家がどのように関わるべきかは、企業ガバナンスの中心論点の一つだ。欧州委員会では、株主の権利に関する指令を発し、加盟各国に役員報酬を株主総会の議案とすることを要請しており、制度改正が進んでいる。また、いわゆるリーマン・ショック以降、米国では金融改革の一環として役員報酬を総会議案とすることが決まり、今年1月以降の株主総会から適用されている。
日本では、以前から報酬の上限改定や退職慰労金について株主総会に諮られており、役員報酬が株主総会の決議の対象になることは当然であると考えられてきた。しかし、欧米、特に米国では報酬決定を経営判断の範疇としており、株主が関与する機会は限られていた。これがオバマ政権下で大きく変わり、報酬関連議案を株主総会に諮るSAY ON PAYが上場会社に義務付けられたのである。注意が必要なのは、株主総会に諮るといっても投票結果が会社を拘束しないNON-BINDIG VOTING(非拘束的決議)であり、報酬に関して株主の意見を参考までに調査するというものにすぎないということだ。報酬議案に関する非拘束的決議は欧州のいくつかの国々でも採用されているが、このような制度も日本とは異なる仕組みである。
こうした世界的な動きの中で、報酬関連議案は投資家の関心を集めている。これまでは投票の機会すらなかった事項について参考意見にとどまるとはいえ、株主の意向が問われるようになり、報酬関連議案に関して厳しい判断が示されるようになった。米国の総会シーズンのこれまでの結果を見ると、SAY ON PAY議案への賛成が多数というところがほとんどだが、賛成が過半に達しない事例もいくつか見られる。
今後の日本の株主総会では、退職慰労金議案に多くの反対票が生じそうだ。SAY ON PAYにおける報酬関連情報の詳細な開示に比較すると、日本の議案説明は透明性に欠けるように思える。機関投資家向けに議決権行使の助言を行うコンサルタント会社では、退職慰労金議案が支給額不明なまま議案にされている現状を問題視し、支給額あるいはその算定方法が明確にされない場合には、賛成投票を助言推奨できないという方針を新たに策定している。現状の議案の作り方のままでは、反対投票推奨にならざるを得ない。問題なのは、欧米のSAY ON PAYと異なり日本の退職慰労金議案の決議には拘束力があるということである。否決されれば慰労金の支給はできなくなる。議決権行使コンサルタント会社の推奨に影響を受けやすい海外投資家の保有比率が高い場合には、否決のリスクを避けるために支給額やその算定方法を明瞭に開示することを検討してもいいだろう。
既に退職慰労金制度を廃止した企業も多い。そうした中で、この制度の存続を図ろうとするならば、不明確な報酬制度を維持する企業としてかえって注目されることにもなりかねない。
会社役員の報酬に対して投資家がどのように関わるべきかは、企業ガバナンスの中心論点の一つだ。欧州委員会では、株主の権利に関する指令を発し、加盟各国に役員報酬を株主総会の議案とすることを要請しており、制度改正が進んでいる。また、いわゆるリーマン・ショック以降、米国では金融改革の一環として役員報酬を総会議案とすることが決まり、今年1月以降の株主総会から適用されている。
日本では、以前から報酬の上限改定や退職慰労金について株主総会に諮られており、役員報酬が株主総会の決議の対象になることは当然であると考えられてきた。しかし、欧米、特に米国では報酬決定を経営判断の範疇としており、株主が関与する機会は限られていた。これがオバマ政権下で大きく変わり、報酬関連議案を株主総会に諮るSAY ON PAYが上場会社に義務付けられたのである。注意が必要なのは、株主総会に諮るといっても投票結果が会社を拘束しないNON-BINDIG VOTING(非拘束的決議)であり、報酬に関して株主の意見を参考までに調査するというものにすぎないということだ。報酬議案に関する非拘束的決議は欧州のいくつかの国々でも採用されているが、このような制度も日本とは異なる仕組みである。
こうした世界的な動きの中で、報酬関連議案は投資家の関心を集めている。これまでは投票の機会すらなかった事項について参考意見にとどまるとはいえ、株主の意向が問われるようになり、報酬関連議案に関して厳しい判断が示されるようになった。米国の総会シーズンのこれまでの結果を見ると、SAY ON PAY議案への賛成が多数というところがほとんどだが、賛成が過半に達しない事例もいくつか見られる。
今後の日本の株主総会では、退職慰労金議案に多くの反対票が生じそうだ。SAY ON PAYにおける報酬関連情報の詳細な開示に比較すると、日本の議案説明は透明性に欠けるように思える。機関投資家向けに議決権行使の助言を行うコンサルタント会社では、退職慰労金議案が支給額不明なまま議案にされている現状を問題視し、支給額あるいはその算定方法が明確にされない場合には、賛成投票を助言推奨できないという方針を新たに策定している。現状の議案の作り方のままでは、反対投票推奨にならざるを得ない。問題なのは、欧米のSAY ON PAYと異なり日本の退職慰労金議案の決議には拘束力があるということである。否決されれば慰労金の支給はできなくなる。議決権行使コンサルタント会社の推奨に影響を受けやすい海外投資家の保有比率が高い場合には、否決のリスクを避けるために支給額やその算定方法を明瞭に開示することを検討してもいいだろう。
既に退職慰労金制度を廃止した企業も多い。そうした中で、この制度の存続を図ろうとするならば、不明確な報酬制度を維持する企業としてかえって注目されることにもなりかねない。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
スチュワードシップとESGは別モノ:英FRC
英国でスチュワードシップの定義を変更、ESG要素を削除
2025年06月13日
-
ISSBがIFRS S2の改正案を公表
温室効果ガス排出量の測定・開示に関する要件を一部緩和
2025年05月16日
-
年金基金のESG投資を実質禁止へ:米労働省
バイデン政権時代に制定されたESG投資促進の規則は廃止へ
2025年05月14日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
-
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
-
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日