2024年04月24日
サマリー
◆多くの日本企業は、株主還元策の基本方針として目標配当性向を設定している。1,400社を超える企業が株主還元の数値目標を設定しているが、そのうち70%以上が配当性向を目標とし、目標配当性向を30~40%程度に置いている企業が圧倒的に多い。
◆米国企業は自社株買いを積極的に実施するため総還元性向が高い。配当性向の平均値は日本企業とほぼ同水準であるが、その内容は日米で大きく異なる。米国では成長企業は無配が多い一方で、歴史ある大企業の多くは継続的な増配にこだわっている。
◆企業の成長ステージに応じて株主還元の水準を考えるというのが本来あるべき姿であるが、日本企業は成長ステージに関係なく画一的な株主還元策を行う傾向が強い。
◆日本独自の基準ともいえる目標配当性向をベースとした配当政策には問題点が多い。「利益が減少した時に減配になること」、「株価がディスカウント評価されやすいこと」、「内部留保を前提としているため資本効率の低下につながりやすいこと」が主な問題点であり、投資家目線では優れた基準であるとはいえない。
◆株主還元策の策定にあたっては、企業価値向上を念頭に置くことが望ましい。具体的には、有利子負債と株主資本等で構成される資本構成の最適化を目指したバランスシートマネジメントとリンクさせた形で株主還元を実施するのが理想的である。
◆理想的な株主還元策を策定した事例として参考になるのが丸井グループだ。丸井グループは約10年かけて目指すべきバランスシートを実現した後に、新たな株主還元方針として、資本効率の向上と長期安定的な増配を実現するため、DOE(株主資本配当率)基準を導入し、目標DOEを8%と高い水準に設定した。
◆日本企業の稼ぐ力が高まる一方で、目標配当性向をベースとした株主還元策が未だに主流であるため、株主資本等が膨張して資本効率の向上を阻んでいる。今後、配当方針を目標配当性向30~40%という基準から、目標DOE4~5%とする基準に変更するといったようなバランスシートの最適化を見据えた株主還元策が拡がることを期待したい。
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