2014年03月19日
「新しい製品やサービスがなかなか生まれない」。業績が伸び悩んでいる企業で、よく話題となるテーマである。新製品・新サービスの開発には時間やコストがかかる一方で、将来の成果がはっきりと見込めない。このことから、特に業績が厳しい局面において、研究開発部門に対しては、「コスト部門」として、他部門からの風当たりが強い傾向がある。
他方、企業の研究開発部門は、常に、聖域として、合理化の手が入りにくい傾向にあることも確かである。最先端の技術になればなるほど、高度化、専門化が進み、専門外の者からは研究内容が理解できず、往々にしてマネジメントが現場の研究者任せになりがちであることも多い。
先行投資である研究開発を、コストをうまくコントロールしながら、成果を出せるようにすることは、企業の研究開発組織において、永遠の課題であろう。過去から、多くの企業が様々な試行錯誤を行ってきている。ここでは、2社の異なる取り組みを紹介したい。
(1)事業部門に横串を刺す「機能別組織」としての技術センター:東レのケース
東レは、合成繊維で培った技術を様々な分野に展開することで事業拡大を行ってきた。現在では、繊維以外にも、樹脂・ケミカル、フィルム、複合材料、医薬・医療、など主要な事業部門だけでも7つの本部がある。各々が、製品も顧客も異なる事業であり、研究所・技術開発部署も、各々の事業分野に対応して組織化されている。これは複数の事業部門を持つ製造業にとっては、一般的な組織体系であろう。東レのユニークな点は、それらの研究所・技術開発部署を統括する「技術センター」という組織の存在である。技術センターは、研究開発の全社的な戦略や重要プロジェクトの立案を担う役割であり、事業部門に分かれた技術に横串を刺すことで、「分断されていない」研究開発体制をとり、イノベーションを生み出すという狙いがあるとのことである。技術センターの権限は、研究開発部門のみならず、生産技術やエンジニアリングに関わる部門にも及んでおり、製品化まで見据えた体制になっている点も注目できる。
(2)現場が研究開発から製造、販売まで担う組織:浜松ホトニクスのケース
東レとは正反対といっていい組織をとっている企業がある。光電子増倍管で高いシェアを持つ浜松ホトニクスである。
同社でも、製品別の事業部制であるのは東レと同様であるが、特徴的なのは、売上高約1,000億円という規模にも関わらず、その部門数が40以上あるという点である。1部門が少人数(大体10名程度)で構成されているのである。1部門のチームで、一つの製品に対して、研究開発、製造、販売を行うだけでなく、製品ごとの収益管理も行っている。現場社員は、仕事の時間の約6割を製造、3-4割を研究開発に使い、また顧客先にも直接出向いている。研究開発にたずさわる社員が、製品に関わる全てに責任を持つことで、自ら考え、行動できる、という狙いのもとに行われている組織運営である。
会社の規模や事業領域、経営スタイルも異なる2社の事例であり、どちらのやり方が正しいというわけではない。しかし、2社のケースに共通するのは、研究開発を研究所や開発部署のみの閉ざされたものにせず、研究開発に関わる部署以外の機能との連携を積極的に進めている点である。この他にも、領域を越えたアイデアや考え方の共有のため、異なる専門領域の研究者を一同に集めた研究成果発表会を実施しているという企業もある。製品を生み出し、収益を上げ続けなければならない企業にとって、研究開発は極めて重要な戦略部門である。その在り方については、企業の理念やフィロソフィーに則り、全社的な視点で考えることが重要であろう。
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