2013年08月07日
地域統括会社とは、アメリカやヨーロッパ、アジア、中東、アフリカなどグローバルな視点で世界を見渡した時に、市場のニーズや政治・経済・文化などの諸条件が類似している国々を一つの地域として構成し、その地域に共通する意思決定を統一的・総合的に行うために設立された組織をいう。地域統括会社はもともと、1960年代初頭にアメリカの多国籍企業がヨーロッパを中心に複数の子会社を設立し、それらをいかに効率的にマネジメントしていくか、という多国籍企業の組織再編プロセスの中で考案されたとされる。(※1)
しかし、1960年代初頭のアメリカ多国籍企業の多くは、設立後間もない時期に地域統括会社の縮小、撤退を余儀なくされている。これは、地域統括会社という組織が、事業別組織と地域別組織との組合せによるマトリックス組織であり、複数の指示命令系統をうまく調整しながら運営していくことが困難であったこと、本社と各子会社との間に組織の二重性の問題があったこと、間接コストの増大を上回るメリットを見いだせなかったこと等が失敗の原因として挙げられている。
また、日本の海外進出企業については、(財)関西生産本部が1995年に地域統括会社に関するアンケート調査を実施している。当該調査によれば、地域のアドミニストレーション機能やスタッフの統括機能という面では成果があがっていた一方で、ライン機能(※2)の統括の面では成果があがっていないという結果となった。特に、成果があがっていない企業では、地域統括会社の位置づけが曖昧であり、地域統括会社の存在意義そのものが問われているケースも多くみられた。
上記(財)関西生産本部のアンケート調査は若干古いデータではあるが、2013年の現在においても、地域統括会社というマトリックス組織運営の困難さや、本社組織との二重性の問題、地域統括会社の位置づけの曖昧さ等については、未だ本質的な課題として残っている企業も多いのではないか。その結果として、地域統括会社におけるライン業務の統括という成果が上がりにくくなっているものと思われる。グローバル経営の最大の目的は、海外現地法人を適切に管理・モニタリングすることで、商品や技術のノウハウ共有化、開発・生産・調達コストの低減、グループ余剰資金の最適配分といったグループの全体最適を図ることにある。一方で、海外現地法人は現地の事情を加味した迅速かつ機動的な事業運営が肝要であり、本社から適切に海外現地法人に権限を委譲することも重要である。地域統括会社は、海外現地法人の適切な管理・モニタリングという役割と、現地の事情に即した迅速かつ機動的な事業運営を可能にするという役割の両方を担うことで、本社と海外現地法人をつなぐ機能を果たす重要な手段となりうるのである。
企業がグローバルに事業を展開していくにあたっては、実際に地域統括会社という名前の組織を設立する必要は必ずしもなく、地域統括会社が担う機能を重要な海外拠点に持たせることで足りる場合もあろう。グループの全体最適と地域個別最適のバランスは、企業が営む事業の数や特性、進出する国・地域の特徴、企業が位置する成長ステージ等によって異なる。すなわち、企業にとってあるべきグローバル経営の解は、一つではない。
海外売上比率が一定程度に達した企業など、従来のステージからの脱却を図りグローバル経営を目指す企業は、一度立ち止まって、本社と海外現地法人とが持つべき権限や機能等を整理し、明確化しておくことが肝要である。グローバル全体最適と地域個別最適のバランスの最適解を見極めることで、はじめてグローバル経営が可能となるといっても過言ではない。
(※1)「国際経営の組織と実際」高橋浩夫著
(※2)原材料・部品調達業務の統合、傘下現地企業のモニタリング、グローバル戦略と地域戦略の調整、生産活動・販売活動・R&D活動など
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