2013年06月26日
近年、多くの企業が中期経営計画や長期ビジョンといった中長期の見通しを策定し、対外的に公表している。年度予算が1年単位であるのに対し、中期経営計画であれば3年から5年、長期ビジョンであれば10年、というように、数年先の計画を策定することになる。策定のためには、数年先の経済情勢、市場環境、交易条件など企業を取り巻く外部環境を想定し、ある一定の前提のもとに、その時点において企業の目指す姿や計数目標を立てることが一般的であり、多くの企業が、中長期の計画策定には時間と手数をかけている。
一方、一度策定した中長期計画の実行に対しては、策定時ほどエネルギーを注いでいないように見受けられる企業がある。しかし、実行されなければ、計画は絵に描いた餅である。対外的に公表している企業、特に株式を上場している企業にとって、中長期経営計画はステークホルダーに対する経営の果たすべき約束、コミットメントである。達成できなければ、投資家の信頼は揺らぐ。計画の未達成を何度も繰り返すうちに、中長期計画の公表自体が株式市場から軽視されるようになってしまった企業もある。実行が伴わない計画の発表は、経営のリスクになり得る。
それでは中長期経営計画の実行に際して重要な点はなにか、以下で考えたい。
(1)計画に理念はあるか
経営計画は計数目標も重要であるが、定量的な計画は「外部環境が想定外に悪化した」、「前提条件が変化した」、といった達成できなかった理由をつけやすい。重要なのは、計数目標を立てた時の前提条件ではなく、計画の土台となる企業の考え方(理念・企業哲学)ではないだろうか。経営計画が、企業の考え方に則ったものであり、それがステークホルダーも納得するものでなければ、たとえ計数目標が達成されたとしても、その評価は一時的なものになる可能性がある。
(2)実行するのは社員である
策定された経営計画を実行するのはその企業の社員である、といった当たり前のことが忘れられていないだろうか。対外的に発表された経営計画を社員が知らない、知っていても自分たちには関係ないと考えている、といった話を現場の社員から聞くことは少なくない。確かに、日々の職務に忙殺される社員に、全社的・中長期的な視点で仕事をすることを課すのは容易ではない。しかし、全社員が経営計画の重要性を理解し、自発的に取り組む土壌を作ることこそが、計画の達成のための最初の一歩であろう。社員が実行しなければ、計画の達成はない。経営者は、社員に対し、全社的・中長期的な視点を持つことの重要性を説明し、実行のために自ら先頭に立つ責任がある。
(3)計画はコミットメントだが、実行プランには修正も必要
経営計画はステークホルダーへのコミットメントであると述べた。しかし、環境変化の著しい昨今、半年先の将来さえ不確実である。計画や目標に対する実行プランは、策定するだけではなく、定期的に振り返り、理念や哲学、大きな目標から外れていないか、確認することが重要である。そこで、方向がずれていた場合や、プランが十分でない場合には、すぐに軌道修正をする柔軟性も、確実な実行のためには必要であろう。
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