2013年04月24日
社員はなぜぬるま湯に浸ったままなのか
経営者が一生懸命に社員の意識改革を促し、「このままでは、わが社はつぶれてしまう。『カモメになったペンギン』のように、いま変わらなければならない」と声高にメッセージを発信すればするほど、社員は自己の殻にこもり、今のぬるま湯に浸り切り、変わろうとしないように映るのはどうしてだろう。
これは多くの経営者が、日ごろ疑問(不満?)に思っていることだろう。この原因は「たたき上げの経営者」であるのでメッセージが分かりにくいからでもなく、社員が怠慢であるからでもない。
組織変革にはステップを踏む必要があるが、そのステップをきちんと踏まないから、組織は変わらないのである。
ジョン・P・コッタ—は、変革を成功させるには次の八段階のプロセスが必要だと言っている。とりわけ、初期の準備段階がとても大事で、組織変革が失敗したケースのほとんどは、その準備段階が不十分であったという。
<変革の八段階>
- 準備段階
- 危機意識を高める(周囲の人々に変革の必要性とすぐに実行する重要性を理解させる)
- 変革チームを作る
- 行動の決定
- 変革のビジョンと戦略を立てる(将来がどのように変わり・実現するか明確にする)
- アクション
- 変革のビジョンの周知徹底
- 行動しやすい環境を整える
- 短期的な成果を生む(できるだけ目に見えるはっきりとした成果を上げる)
- さらに変革を進める(変革につぐ変革で手綱を緩めてはいけない)
- 変革を根付かせる
- 新しい文化を根付かせる
ステップ・バイ・ステップの変革連鎖
本当の意味での変革には、その組織の変革が企業文化として定着しなければならない。したがって、図表1のように変革に次ぐ変革が必要である。そのことを念頭において、各階層で必要な施策を打ち、PDCAをしっかり回すことが、肝要である。

ハーズバーグの2要素理論
では、組織を変革するためには、具体的にどのような組織・人事制度の構築が必要なのだろうか。社員が危機意識を共有し同じベクトルに向かって、モチベーションを高めるような目標を立てることができれば、組織は変革する。
どんな立派な戦略を構築しても、それを実行するのは人である。したがって人々のモチベーションを上げ、ロイヤリティーを高めことが大切である。その後、各人が構成する組織が生まれる。変革をリードするのは人材である。
そこでモチベーション理論の第一人者のハーズバーグの考え方が参考になる。
モチベーション研究の第一人者であるハーズバーグは、人間には「動機付け要因」と「衛生要因」という2種類の欲求があり、「動機付け要因」とは、なくても不満ということはないが、経験するといっそう満足を得るような欲求であることから「満足要因」ともいう。 一方、「衛生要因」とは、なければ不満だが、あったとしても満足するに至ることはないことから「不満足要因」ともいう。不満に思っていることを解消しても、それは動議付けにはつながらない。図表2の各箱の横の長さは、それらの要因が現れた度数を表示している。箱の縦の幅は、よい職務態度、または悪い職務態度が持続した期間を、短期間と長期間の区別で指示している。短期間の態度変化は二週間以上持続しないのに対し、長期間の態度変化は数年にわたって持続することもあり得た。主な「動機付け要因」として、達成(自らが仕事を成し遂げること)、承認(自身が認められ評価を受けること)、仕事そのもの(仕事をすること自体に満足できること)、責任(責任を持たされること)、昇進(社会的に威信の大きい地位に就けること)がある。
自社の組織・人事制度を振り返り、「衛生要因」や「動機づけ要因」に該当するものを拾い集め、もう一度整理してみるのもいいのではないかと思われる。
案外、制度のほころびが浮かび上がるかもしれない。

最後に、ハーズバーグ理論を応用して組織・人事制度を再考するにあたって、以下の点に留意すべきであろう。
満足を生みだす要因は、不満を招いた要因から分離した別個のものであり、例えば満足を視覚、不満を聴覚にたとえた場合、視覚の刺激は光であり、光の増減は聴覚に何の影響ももたない。また、聴覚の刺激は音であり、音の増減は視覚に何の影響も持たない。
この整理が不十分なまま制度設計しているケースが非常に多い。これを機会に自社の組織・人事制度をもう一度見直してはいかがだろうか。
(参考文献)
「仕事と人間性」(フレデリック・ハーズバーグ著、北野利信訳、1968年、東洋経済新報社)
「カモメになったペンギン」(ジョン・P・コッタ—ほか著、藤原和博訳、2007年、ダイヤモンド社)
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