2013年04月10日
財務戦略の究極の目的は、事業戦略をサポートする最適資本構成の実現である。 企業の財務的な意思決定は、それぞれの企業に固有の事業リスクに対応して行われなければならない。まず事業戦略ありきなのである。

(1)事業リスクに対応した財務戦略の策定
例えば、半導体メーカーのように景気変動の影響を受けやすい(=事業リスクの高い)企業は、資本構成を株主資本中心にする(=財務リスクを低める)ことが求められる。逆に、公益セクターなど収益が安定している企業は、資本コストの低い負債を積極活用(財務リスクを負担)することが望ましい。
企業の総リスクは事業リスクと財務リスクの和であるから、総リスクをコントロールするためには、主体的にコントロール可能な財務リスクを財務戦略により調整する必要があるわけである。
欧米企業ではこのような考え方が定着しており、事業戦略に応じて最適資本構成を構築する戦略的な財務意思決定が行われるケースが多い。
(2)日本企業の課題は資本効率の追求
一方、日本企業においては、最適資本構成をターゲットに財務的な意思決定が行われることが必ずしも多くない。
銀行の力が圧倒的に強かったせいか、有利子負債の水準を引き下げようというインセンティブが強くはたらき、無借金企業が財務的に優良だと評価されることも多い。逆に、株主の発言力が弱かったために、資本効率を高めるために過剰な資本を減少させようという考えは浸透していない。
その結果、過去安定的に高収益であった(=事業リスクの低い)企業ほど、株主資本偏重の資本構成(=低財務リスク)となっており、それが過剰資本・低ROE(自己資本利益率)の要因になっているというパターンが多い。
多くの日本企業は、資本効率や資本コストへの意識が希薄である。企業価値を高めるためには、資本コスト概念を正しく理解したうえで、資本構成の最適化を図る必要がある。 正しい財務戦略により企業価値を向上させることができれば、株価上昇に伴う直接・間接の効果により、国民経済にとって大きなプラスになることは間違いない。
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