日本の組織の情報活用能力について考える(その2)

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「今年は厳しい年になりそうですね」という挨拶が世界中で交わされたことだろう。 この危機をチャンスに変えるためにも、情報化時代の組織要件と日本における課題について考えてみたい。


情報化時代の到来により、情報爆発が起き、情報伝達のコストが急速に低下した。その結果、組織マネジメントのパラダイムが変わった。
新しい時代の組織要件は以下の5つに整理できる。


要件1.権限委譲の促進
組織各階層は大量の情報をリアルタイムに共有することができるようになり、その中から必要な情報を見つけ、委任された役割と状況に応じた速やかな意思決定が求められる。顧客先でも社内情報を瞬時に確認し、適切な判断を下すことが可能となる。従来は「社に帰って検討します」で許されたことが次第に許されなくなる。 大胆な権限委譲が求められている。


要件2.オープンな情報アクセスとコミュニケーション
権限委譲は容易に進むものではない。権限委譲される側に、適切な判断や自律的に行動できる能力が求められる。そのためには、十分な情報が与えられ、自由にアクセスできなければならない。また、自分勝手な判断や行動とならないよう、組織内でオープンなコミュニケーションがとられていなければならない。


要件3.目標の共有化(業務や経営の見える化)
権限委譲を進めて部下の自律化を進めながら、組織として整合性の取れた判断や行動を行うため、業務や経営の見える化を図り、組織やチーム内で目標を共有する必要が生じる。そこで導入されるのが、目標管理(さらにバランス・スコアカード)である。


要件4.人材の育成
情報化時代に適合するのは自律化した人材であり、明らかに従来の組織に求められていた人材像とは異なる。成長意欲を持つ人材、さらにその人材を成長に導くことのできる、つまり、人材を育成するリーダーが求められる。報・連・相ばかりで自分で判断できない人材では困る。組織は新たに求められる人材像を明らかにしなければならない。この人材の要件はリーダーシップ・バリューなどと呼ばれる。 各人材は業績だけでなくリーダーシップ・バリューとのクロスで評価される。


要件5.トップのビジョンとリーダーシップ
情報化時代の組織が具備すべき4つの要件を示した。しかし、すべての前提となるのは、トップが上記要件を踏まえた組織変革ビジョンを持ち、リーダーシップを発揮することである。


それでは、日本における課題について考えてみたい。


新しい時代の組織を作るために、目標管理による成果主義を導入している企業は多い。しかし、多くの企業でこの仕組みが十分には機能していないようである。何が問題なのだろうか。
目標は自主的に管理されなければならない。そのためには権限委譲を前提とし、設定される目標は上司、部下の間に合意が成立していなければならない。そして、部下はその目標にコミットメントするのである。権限委譲、合意形成、コミットメントのサイクルを回すためには十分なコミュニケーションが必要となる。目標管理は情報化時代の組織作りのために権限委譲を実現するコミュニケーションの仕組みであるとも言える。
しかし、目標管理を権限委譲や人材育成の機会と捉え、十分なコミュニケーションを取っている上司は多くない。その結果、売り上げなどの財務的な数値がブレークダウンされ、目先の成果ばかりを求めるノルマ的な目標管理に陥ってしまうのである。 権限委譲の促進(要件1)が難しい。権限を委譲すると、当初は失敗もあるかもしれない。しかし、部下の成長を信じて、長期的視点で取り組む必要がある。


ITに投資し、高度な情報処理システムを作れば作るほど、それに見合う情報活用能力が個人や組織に求められる。これは組織が多くの情報をより高速に処理するために、高度な情報システムを導入すれば、組織メンバー間のコミュニケーションをもっと活発にしなければならないことを意味する。
組織としての意思決定のスピードを高めなければならず、一方で時間のかかるメンバー間の人材育成を踏まえたコミュニケーションも増やさなければならない。また、個を生かす組織風土を作らなければ、自律した個人が組織を離れ、そうでない個だけが残ると言うことにもなりかねない。組織の情報活用能力を高めていくためには、これらの矛盾と戦い、解を導き出す必要がある。

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