「組織」と「戦略」 ・・・主従はあるのか?

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「組織」と「戦略」の関係
「組織は戦略に従う」。アルフレッド・D・チャンドラーJr.が著書「Strategy and Structure」の中で述べている考え方である。一方で、「戦略は組織に従う」という考え方をイゴール・アンゾフは提示している。
この二人の著名な経営学者による考え方は一見対立しているように見える。では、「組織」と「戦略」にはどのような主従があるのであろうか。私なりに整理をしてみたい。
「戦略」は、一般的には「理念」と「ビジョン」に基づき策定されるものであると言われている。このことと前記二人の考え方を単純に併せて見ると以下の図のようになる。

「組織」と「戦略」

普通に考えれば、「組織」は、理念、ビジョンに基づき策定された「戦略」に従うという考え方が自然と思われ、このことは「組織は戦略に従う」という考え方の方が認知度が高いことにも通じる。しかしながら、「組織」を、事業部制、カンパニー制、持株会社体制等の組織形態と捉える場合、組織の規模や成熟度等何らかの制約で望まれる組織形態を採ることができない会社では「戦略」が「組織」に従う場合も出てくるであろう。
また、「組織」を企業文化や風土、人的リソースと捉えると、考え得る「戦略」に企業文化や風土からくる限界が生じることや、「戦略」を考える人的リソースの能力による限界が生じることもあるであろう。採り得る戦略が現有の「組織」に制限されるという考えである。
このように考えると、「戦略」と「組織」はどちらが主でどちらが従と考えるのではなく、主従に捕われることなく、ともに考えなければならないものであることが分かってくる。


経営戦略と組織戦略は、戦略の裏表
そもそも「戦略」とは、「経営戦略」と「組織戦略(組織形態、人事・評価制度、意識改革等の組織や人を動かす仕組み)」とが一体で構成されるべきものであり、「経営戦略」策定にあたっては、「組織戦略」を併せて考えることを忘れてはならない。
本稿をお読みの皆様の会社においても、これらを別々に考えている、もしくは別々に考えている訳ではないがふたつの戦略に密接な関係があるとは言えない、ということがあるのではないだろうか。


経営戦略・経営環境の変化に組織戦略を適合させているか
マクロ経済環境や業界環境、自社の業界内ポジションや収益性等によって採るべき経営戦略は時々で変化する。組織戦略も、実務では事業部制やカンパニー制の採用、持株会社体制への移行やその後の解消など様々な取り組みが行われている。どの組織形態が優れているということではなく、経営環境の変化に合わせ、当然とるべき組織戦略も変化させる必要がある。
経営不振に陥った企業について「事業部制の採用が失敗であった」等の組織体制についての論評を聞くこともあるが、この場合の「失敗」については、策定した戦略に組織体制が本当にあっていなかった場合と、一時期は経営戦略と組織戦略がうまくかみ合い成果を上げていたがその後の経営環境の変化に組織を対応させることができなかった(怠った)ことが失敗の本質的な原因である場合があることを理解する必要がある。


改めて組織戦略を見つめ直す
大変な労力を要する経営戦略策定と同時に、会社の枠組みを変える持株会社体制への移行のような組織再編を伴う組織戦略を検討することは、手を付けにくいことかもしれない。しかし、経営戦略に適合した組織戦略、すなわち組織や人を動かす仕組みが伴わなければ、折角の戦略が実行段階で進捗しないばかりか、経営そのもののマイナス要因になることも考えられる。経営戦略を策定してみたが、なかなか思うような進捗に結びつかないというような会社は、一度組織戦略を見つめ直してみるのもよいのではないか。

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