2014年10月22日
平成26年3月末(平成25年4月1日以後開始する事業年度の年度末)から新退職給付会計基準が適用された。今回の基準改正の1つである退職給付債務及び勤務費用の計算方法(「退職給付見込額の期間帰属方法」及び「割引率の設定方法の見直し」)は、平成26年4月1日以後開始する事業年度の期首からの適用となり、第1四半期報告書の注記事項に会計方針の変更として記載されている(平成26年3月期決算企業)。
今回は、EDINETで開示されている四半期報告書から、退職給付債務及び勤務費用の計算方法のうち、上場企業等が選択した「退職給付見込額の期間帰属方法」について調べた。
◆退職給付見込額の期間帰属方法
「退職給付見込額の期間帰属方法」とは、将来退職により見込まれる退職給付の総額(退職給付見込額)のうち、期末までに発生していると認められる額を算定する方法である。今回の改正では、以下の2つの方法のうち一方を選択することになる。
「期間定額基準」は従来から採用されているもので、「給付算定式基準」は今回の改正で新たに導入された期間帰属方法である。各方法の詳細については、以下の退職給付に関するコンサルティング・インサイトをご参照いただきたい。
- IFRSへのコンバージェンスに伴い退職給付会計が原則主義へ(2012年9月19日付)
- 退職給付会計における「給付の期間帰属方法」に関する実務対応について(2013年2月20日付)
- 新退職給付会計基準における退職給付債務の計算手法の見直しについて(2013年9月11日付)
今回、調査対象としたものは、平成26年7月及び8月に開示された第1四半期報告書で、注記事項に会計方針の変更として退職給付に関する会計基準等の適用について記載している上場企業等1,677社について調べた。このうち1,403社(83.7%)の企業が「給付算定式基準」を選択していた。また残りの274社(※)(16.3%)は「期間定額基準」を選択していると思われる。
※274社のうち、「期間定額基準」と明記していた企業は37社(2.2%)、「退職給付見込額の期間帰属方法」についての記載がない企業237社(14.1%)は継続して「期間定額基準」を選択していると思われる。
各企業は「退職給付見込額の期間帰属方法」の選択にあたり、様々な検討を重ねたと思われるが、今回の選択結果は、多くの企業が将来的にIFRS(国際財務報告基準)の適用を最優先に考慮・検討した結果の表れであろう。
日本ではIFRSの強制適用について結論は出されていないものの、一定の要件を満たす企業にはIFRSの任意適用が認められている。現時点でIFRSの強制適用については不透明であるが、将来のIFRSの適用動向を視野にいれた場合、退職給付会計における「退職給付見込額の期間帰属方法」の選択について以下のような留意すべき事項があり、多くの企業が「給付算定式基準」を選択した理由も窺える。
- IFRSにおいて「期間定額基準」の適用は不可
今回の基準改正では、「退職給付見込額の期間帰属方法」として「期間定額基準」と「給付算定式基準」の両基準が認められるが、国際会計基準では「給付算定式基準」が原則的な基準であり、「期間定額基準」は認められていない。 - 退職給付会計の二重管理
今回の基準改正で「期間定額基準」を選択すると、将来的にIFRSの任意適用を行った場合に異なる2つの退職給付会計の管理が必要となる。(将来IFRSを任意適用した場合でも日本基準は「期間定額基準」を採用という前提。日本基準用には「期間定額基準」で算定したもの、IFRS用には「給付算定式基準」で算定したものが必要となる)。 - 適用初年度後の変更は遡及適用が必要
今回の基準改正のタイミングで従来の「期間定額基準」から「給付算定式基準」に変更する場合、変更による影響額は遡及適用されないが、将来の時点で「給付算定式基準」に変更する場合は、影響額を算定し遡及適用が必要となる。 - 適用初年度後の変更は正当な理由が必要
「退職給付見込額の期間帰属方法」の変更は、「会計方針の変更」に該当するため、正当な理由が必要となる。
今回の退職給付会計基準改正は、IFRSとの「会計基準コンバージェンス化」を加速化する取組みの一つとして行われたものであり、各企業がIFRSを意識した対応をとったことも当然のことであろう。今後、これから決算期を迎える企業の四半期報告書の開示が行われるが、今回の調査結果からも多くの企業が「給付算定式基準」を選択していることが予想される。
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