2015年01月08日
アジア新興国(ASEAN諸国、中国、インド)の所得水準が上昇するに従って、当該地域の「消費市場」としての魅力が高まってきている。2013年の1人あたりGDPは、4,222ドル(加重平均)。最も高いシンガポール(55,182ドル)と最も低いカンボジア(1,028ドル)の差は54倍と大きいが、2000年以降、外国資本の流入による雇用機会の創出が奏功し、それまでは500ドルに満たなかったインドやASEAN内の後発途上国(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)の所得水準が上昇し、地域内格差は約107倍から大幅に縮小している。
また、初めてこれらの国を訪問した際に、「1人あたりGDPの水準を基に(日本で)想像していたよりも街は発展しており、経済的に豊かな人が多い」との第一印象を持つ人も多いのではないだろうか。中国やインドのように国土が広い国や、タイのように一都市に人口が集中しているような国の場合、一国単位でみた平均的な所得水準と、人口が集中する都市部の所得水準が大きく乖離する傾向にある。Euromonitor Internationalのデータによると、比較可能な7ヵ国(インド、ベトナム、フィリピン、インドネシア、タイ、中国、マレーシア)では、都市部の1人あたりの可処分所得はそれぞれの国平均に対して2倍の水準となっており、最も格差が大きかったのはインド(デリー)では2.9倍、最も小さかったフィリピン(マニラ)でさえ1.5倍の開きがあった。
所得差が大きいと、都市部の消費パターンも一国単位のそれとは大きく異なると考えられる。例えば、消費支出に占める飲食費の比率を表した「エンゲル係数」は、比率が高いほど生活水準が低いと考える目安となっているが、当該7ヵ国では、国によって変動幅は異なるものの、都市部の飲食費に対する支出比率は、一国単位よりも低い傾向にある。
以下では、当該7ヵ国とシンガポールについて、8ヵ国間で比較した一国単位での家計消費の特徴と、一国単位とその国の主要都市での支出比率の違いを、所得水準の低い順に紹介する。
■インド(1人あたりGDP:1,414ドル)
ガソリン代や自動車購入費が含まれる交通費の占める比率が、他のアジア新興国に比べて高く(15.9%)、都市部(26.4%)では更にその比率が上昇していることが特徴的である。交通費の他では被服費の比率が他国に比べて高く、一方で通信費、教育費、宿泊費(ホテル、ケータリング等)の比率が低い。都市部(デリー)では、交通費(+10.5%ポイント)、住居費(+3.8%ポイント)の比率が上昇し、食費(▲9.2%ポイント)、被服費(▲4.5%ポイント)が低下している。
■ベトナム(同:1,902ドル)
他のアジア新興国に比べ、家具・家電費、教育費の比率が高く、住居費の比率が低い。都市部(ホーチミン)では、一国単位では相対的に低かった住居費(+1.1%ポイント)や、宿泊費(+3.2%ポイント)、教育費(+1.5%ポイント)が高くなっている。一方、インド同様、食費(▲5.8%ポイント)が低下している。
■フィリピン(同:2,791ドル)
他のアジア新興国に比べ、食費の比率が高く、アルコール・タバコへの支出、被服費、宿泊費の比率が低い。都市部(マニラ)では、交通費(+4.1%ポイント)や教育費(+1.5%ポイント)が高くなり、食費(▲9.2%ポイント)が大きく低下している。
■インドネシア(同:3,510ドル)
他国とは異なり、都市部の食費の支出比率(32.4%)が、一国平均(33.2%)と大きな差がないことが特徴的である。一国単位では、他のアジア新興国に比べ、アルコール・タバコへの支出比率が高い。同国はイスラム教国であるため、アルコールへの支出比率は低いが、タバコが比率を押し上げている。一方、相対的に著しく低い支出比率の項目はない。都市部(ジャカルタ)では、宿泊費(+1.3%ポイント)や娯楽費(+0.6%ポイント)が高くなり、交通費(▲1.6%ポイント)が低下している。
■タイ(同:5,676ドル)
一国単位ではマレーシアの半分程度の所得水準ではあるが、タイの所得格差はASEAN5ヵ国の中で最も大きいこともあり、首都バンコクでは娯楽やアルコール・タバコといった嗜好性の高い消費傾向が窺える。一国単位でみると、他のアジア新興国に比べ、交通費と宿泊費の比率が高く、住居費(帰属家賃含む)の比率が低い。都市部(バンコク)では、食費(▲4.1%ポイント)が低下し、医療費(+3.0%ポイント)、家具・家電費(+1.7%ポイント)、娯楽費(+1.4%ポイント)が高くなる。また、他のアジア新興国の多くが、アルコール・タバコへの支出比率は都市部の方が低い傾向にあるが、バンコクでは+1.3%ポイントと高くなっている。
■中国(同:6,959ドル)
他国に比べ、都市と一国平均との間で、各項目に対する支出比率の差が大きい点が特徴的である。一国単位でみると、他のアジア新興国に比べ、被服費と医療費の比率が高く、交通費と宿泊費の比率が低い。都市部(上海)では、宿泊費(+5.9%ポイント)、娯楽費(+4.2%ポイント)、教育費(+3.8%ポイント)が高くなり、食費(▲9.9%ポイント)、住居費(▲5.5%ポイント)、被服費(▲2.9%ポイント)が低下している。
■マレーシア(同:10,457ドル)
タイ同様、マレーシアでもアルコール・タバコに対する支出比率は都市部の方が若干高い(+0.4%ポイント)点が特徴である。他のアジア新興国との比較では、通信費の比率が高い程度で、大きな支出構成の差はない。都市部(クアラルンプール)では、交通費(+3.6%ポイント)、宿泊費(+2.9%ポイント)、通信費(+2.5%ポイント)が高くなり、食費(▲4.8%ポイント)が低くなっている。
■シンガポール(同:55,182ドル)
他のアジア新興国に比べ、所得水準が高いこともあり、娯楽費、住居費、交通費の比率が高く、食費の比率が低い。
IMFの推計に拠れば、2014年のアジア新興国(ASEAN、インド、中国)の名目GDPが世界全体に占める比率は18.9%。20年前の1994年(5.4%)からウェイトは大幅に上昇している。また、2019年には同比率は21.5%と、米国(22.0%)にほぼ匹敵する経済規模になると予想されている。所得水準が増加し、世界経済に占める比率が高まるアジア新興国の「消費市場」としての魅力は今後も高まると期待される。
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