2010年01月20日
最近の政府の積極的な財政政策により財政健全化の方向性が見えにくくなり、財政制約の深刻化が進んでいる中、地域活性化あるいは地域再生に地域金融を活かす方法に関する論文が増えてきている。総じて、どの論文も共通しているのは、「人口・産業の都市圏への集積に伴い、資金も集中しているため、都市圏と地方の地域との間に格差が生まれている。このため、地域金融機関が預金として吸収した資金を地域に循環させる必要がある」という論調である。
下記表は98年4月末時点と09年11月末時点の各地域の預金・貸出金残高、預貸率の水準とその変化率である。概ね預金残高が増加し、貸出残高が減少しているため預貸率は低下しているが、特に都市圏の落ち込みが各地域とも顕著である。人口・産業が集積しているはずの各地域の都市圏でも、地域金融あるいは金融の地域内に資金を循環させる能力が低下していると考えられる。つまり、都市圏と地方の地域という問題より、どの地域も同じ問題を抱えている。
そもそも預貸率は、収益環境、自行のリスク許容度等、様々な地域金融機関の事業環境における預貸活動の結果を示すデータである。この結果を生み出した原因が、地域内の貸出機会が少ないのか、地域金融の主な貸出先である中小企業金融の貸出に不可欠な借手(潜在的な借手を含む)に関する情報生産活動能力が低下してリスク回避をした結果なのかを見極める必要があろう。ちなみに、国内銀行における、定型化され、客観的なデータが入手可能な有価証券投資の残高は、1998年末には124兆円であったのが、09年11月末には214兆円と倍近くに増えている。その内、国債は31兆円から120兆円の4倍に増加している。つまり、後者の原因も少なからず存在する。
金融庁は、「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」の「監督指針策定の趣旨」の中で、「(リレーションシップバンキングに基づく中小・地域金融機関の)ビジネスモデルは、中小企業や地域経済の実態に根差した情報が活用されることで、地域の中小企業への金融の円滑、貸し手・借り手双方の健全性の確保が図られるものであり、これにより、中小企業の再生と地域経済の活性化に果たす役割は大きい。」とし、中小・地域金融機関が「中小企業や地域経済の実態に根差した情報」を活用することで地域活性化の役割を期待している。一方、「中小企業や地域経済から期待される役割を果たすため、取引先や地域への過大なコミットメントコストを負担することにより、かえって収益力や健全性の低下といった状況を招いている場合」があることにも触れており、地域金融が地域活性化に貢献することの限界も認識している。
地域金融機関の利用者側も同様に感じている。2009年7月に、金融庁が公表した平成21年度の「地域密着型金融の取組み状況について」の地域金融機関が提供する金融サービスに関するアンケートの中で、地域金融機関の全体的な取組みを積極的に評価する利用者は5割以上いたものの、「地域全体の活性化・面的再生」、「地域活性化につながる多様なサービスの提供」に関しては、積極的な評価は3割に留まり、消極的な評価の比率が上回っている。
このように見ていくと、地域金融機関のみで、借り手に関する有用な情報生産創出にかかるコスト負担をする、あるいは地域へのコミットメントを増大させ、地域の情報集積を活用し持続可能な地域経済へ貢献していくことは難しい。やはり、公民連携して、地域全体の活性化という目的に向かって、地域の情報集積を促進し、そのコストを負担し、それを活用し、資金を流していくための、既存の施策にない大胆な施策が必要になっている。
(注)情報生産活動の必要性:貸出(特に中小企業金融)では、有価証券投資と比較して、借手の情報が定型化されず、客観データ化することが困難である。このため、貸し手側は、貸出にあたって、借手に関する私的情報を貸出に耐えうる情報に加工する必要がある。
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