8月30日の衆議院選挙の結果は、大方の予想通り、民主党の圧勝、さらに単独での絶対的安定多数(308名)による政権交代となった。
鳩山内閣組閣後、民主党が選挙前に掲げた政権政策(いわゆるマニフェスト)の実行に向けて動き出すことになる。年金改革では、(1)年金記録被害者への迅速な補償のため、一定の基準の下で「一括補償」を実施するなど、記録問題の解決に2年間集中的に取り組む。(2)年金手帳をすべての加入者に交付し、納めた保険料と受取る年金額がわかるようにする。(3)年金保険料は年金給付だけに充当し、流用を法律で禁止する。(4)年金制度を一元化し、消費税を財源とする月額7万円の最低保障年金を実現する。併せて、納めた保険料を基に年金額を計算する所得比例年金を創設し、この年金を一定額以上受給できる人には、「最低保障年金」を減額する。これらを骨格とする年金制度創設のための法律を平成25年までに成立させる。(5)社会保険庁は国税庁と統合して「歳入庁」とする。(6)年金受給者の税負担を軽減するため、公的年金等控除の最低補償額を140万円に戻す。
以上であるが、マニフェストの工程表によると、平成22年、23年は記録問題への集中対応期間とし、平成24年、25年で制度設計、新たな制度の決定(法案作成・関連法案成立)を予定している。
公的年金制度に関しては、平成16年に保険料固定方式とマクロ経済スライド調整を導入し、標準的な世帯の厚生年金給付水準を平均収入の50.2%とする有限均衡方式に改めた。今年、この改正がスタートして初めての財政検証が行われたばかりである。法改正時に残された課題のうち、基礎年金国庫負担率の引き上げは、将来の財源問題未解決のまま本年実施に移された。また、平成19年通常国会に提出された被用者年金制度の一元化法案(パート労働者への厚生年金の適用拡大等を含む)は、前通常国会で審議未了廃案となった。
平成16年の改正後、平成17年5月に「年金制度をはじめとする社会保障制度改革に関する両院合同会議」が設置され、年金改革等について審議することとなったが、何の成果も生み出さないまま、同年8月の衆議院解散(いわゆる郵政解散)を機に中断した経緯がある。
公的年金制度は、保険料納付期間が40年、年金受給期間が20年、合わせて60年にわたる長期の制度であり、政権交代により制度が抜本的に改正されることは、年金受給者はもちろんのこと、保険料を納付している被保険者の不安をかきたて、制度への信頼感を喪失させることになる。労働党と保守党が政権交代を繰り返すたびに公的年金制度が改正されたイギリスが顕著な例である。
8月25日に厚生労働省が閣議に報告した平成21年版厚生労働白書(「暮らしと社会の安定に向けた自立支援」)によると、高齢者世帯の所得(平成19年で298.9万円)の約7割を公的年金が支えており、公的年金を受給している世帯の約6割は公的年金のみで生活しており、核家族化、少子高齢化の進展の中で、高齢期の生活に大きな役割を果たしている。
民主党政権下の年金改革は、かつての両院合同会議もしくは平成13年の中央省庁再編の際、廃止された社会保障制度審議会のような場で、党利党略の延長線の議論ではなく、国民の安定した生活を慮るとともに、制度の持続可能性を確保するため、医療・介護を含めた社会保障全般の中で議論を尽くしてほしい。
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