国際会計基準と国際監査基準のコンバージェンスのアプローチの相違

RSS

2005年から年2回のペースで、国際監査・保証基準審議会(IAASB)の諮問助言委員会(CAG ) (※1)会合に出席し、国際監査基準(ISAs)の内容を議論している際に、同委員会のメンバーから「フレームワーク・ニュートラル」という発言が時々聞こえてくる。このフレームワークとは会計基準を含む財務報告のフレームワークであり、ニュートラルとは、監査基準が、国際会計基準、各国の会計基準等に対して中立(※2)に策定されるべきという意味である。財務諸表に対する監査は、財務諸表が会計基準に準拠して適正に作成されているか否かについて監査人が意見表明するために実施すべき手続を明示するものである。したがって、国際会計基準に収斂しつつあるものの、依然として各国の会計基準が存在する状況では、国際監査基準は国際会計基準を含む各国の会計基準に対する監査に対応するように策定されることが必要と考えているようである。このため、当該会合では、フレームワークに対する中立性を保つ観点から、財務諸表利用者について優先順位を付けないよう、議論が進められている。


これに対して、国際会計基準審議会(IASB)が推進している会計基準のコンバージェンスにおいては、上記の監査基準とは逆に、財務諸表利用者を含めた会計基準の基本的な考え方を最大公約数フレームワーク(「財務諸表の作成及び表示フレームワーク (※3)」)に盛り込んだ上で、議論がされている。すなわち、国際財務報告基準(IFRSs)のフレームワークには、利用者および利用者の便益(情報要求)を満たすことを財務諸表の目的とし、この利用者の視点を中心にあるべき会計基準を検討することが目的とされている。


IFRSsのフレームワークにおいて想定されている利用者には、「投資者、従業員、貸付者、仕入先及びその他の取引業者、得意先、政府及び監督官庁、一般大衆」(第9項)と幅広い関係者が列挙されている。しかし、「これらの利用者の情報要求のすべてを満たすことができない。」(第10項)としつつ、「すべての利用者に共通する情報要求」として、「投資者は企業のリスク資本の提供者であるので、投資者の要求を満たす財務諸表を提供することによって、財務諸表が満たすことができるその他の利用者の大部分の要求を満足させることになるであろう。」(第10項)としている。つまり、投資者の情報要求を満たすことを最大公約数としていると言える。


金融危機以降における議論においては、2008年11月に開催されたG20 の声明からも垣間見えるように、金融安定化に資するためにこの論理を部分的に修正すべきとの議論がなされているようである。筆者は、投資家が財務報告の最も重要な利用者であること自体は変わらないものと考えるが、今回の市場の混乱を巡る議論を踏まえると、投資者を最大公約数とせず、当該フレームワークに列挙されている利用者に対してある程度中立的に会計基準が議論される方が望ましいのではないかと考える。

(※1)IAASBの諮問助言委員会(CAG;Consultative Advisory Group)。筆者は、現在、同委員会のメンバー。
(※2)但し、IFRSsブランド問題として最近議論されている中では、この中立の立場を、IFRSsに準拠しているかのように見える会計基準に対してもニュートラルである必要があるかという議論が噴出していることには注意が必要。
(※3)当該フレームワークは国際会計基準ではないことに留意。

このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。

関連のサービス