2016年03月23日
M&Aの実務においては、当事会社(売り手・買い手)に加え、弁護士・会計士等の専門家、アドバイザー等が関与する。本稿においては、専門家・アドバイザー等のプレーヤーについて、M&A実務における役割について、考えてみたい。
子会社化の手法において、ある会社(A社)がB社株式の過半数を獲得するという形態(株式取得)が一般的である。この場合、A社は、B社株主に、株式の対価として金銭を交付する。
上場会社同士が「対等の精神」で経営統合(例えば、株式移転)する場合は、若干複雑になる。C社とD社が株式移転により、上位にE社という持株会社を設立するとする。この場合、C社株主は、C社株式をE社に交付し、その代わりにE社株式を受け取る。D社も同様である。結果として、C社・D社は、上場廃止となり、C社・D社を100%子会社とするE社が新たに上場することになる。
株式取得の場合、買い手と、売り手で、関与するプレーヤーは、異なるケースが多い。まず上場会社が非上場会社を相対取引で子会社化する例で検討する。
買い手の立場においては、子会社となる会社について、リスクがないかどうか、デュー・デリジェンス(DD)を実施する。DDにおいては、弁護士が法務を、会計士が財務を調査する。弁護士は、株式譲渡契約書のアドバイスも行う。専門家以外に、ファイナンシャル・アドバイザー(FA)に、(DDを含む)プロジェクト全体のコントロール・株式価値評価を依頼するケースも多い。
売り手の場合は、FAに加え、弁護士を雇うケースが見られる。FAは総合的なアドバイスを行い、弁護士は売り手株主に不利にならないように、法律的見地からアドバイスを行う。
経営統合の場合は、どうだろうか。
上記のC社・D社は、それぞれの株式価値を算定し、その比率で、E社株式の価値が決定する。この意味で、C社は買い手であるのと同時に、売り手の立場となる(D社も同様)。
C社は、相手方(D社)に対し、DDを行い、またFAに移転比率算定を依頼する。D社も同じである。
つまり、株式取得の場合、情報開示等一方的であったものが、経営統合の場合、双方向のものとなるということである。
企業価値算定も、株式取得の場合は1社のみであるが、移転比率の場合は2社算定する必要がある。
単純化していえば、経営統合の場合、情報量や作業量は株式取得の倍となる。このため、当事会社に加え、プレーヤー(特にFA)の負担も大きいものとなる。
M&Aを検討する場合、上記で述べたように、スキームや期間等によって、様々なケースが考えられるため、事前に余裕をもって計画することをお勧めしたい。
弊社は、多数の株式評価・グループ再編に加え、M&Aアドバイザリー業務も行っている。
このインサイトをお読み頂いたことも一つのご縁であり、皆様のお役に立つ機会があれば幸甚である。
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