有価証券報告書における人的資本開示の傾向とポイント

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  • マネジメントコンサルティング部 主任コンサルタント 小林 一樹

サマリー

◆企業内容等の開示に関する内閣府令が改正され、人的資本の開示が義務化された。本稿ではTOPIX100に選定されている企業のうち、改正が適用された2023年3月31日決算の81社について、有価証券報告書での人的資本の開示傾向を整理し、開示のポイントを考察した。

◆人的資本、多様性に関する開示として「従業員の状況」に新たに女性管理職比率、男性の育児休業取得率、男女間賃金格差の開示が義務付けられた。現段階では実績値の開示までが大半であり、追加的情報として目標値までを示す企業は少数であった。

◆新設された「サステナビリティの考え方及び取組」では、必須項目である「人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針」と「社内環境整備に関する方針」に加え、「指標及び目標」としてダイバーシティや育成に関して開示する企業が多かった。開示が義務化される以前と比較しても開示内容が拡充される傾向にある。

◆人的資本の開示においては、(1)経営戦略との関連性を踏まえた強弱のある開示、(2)目標に対するギャップと改善状況を示す定量的な開示、(3)参照や転記を活用した整合性のある開示という点がポイントになると考えられる。これらのポイントを踏まえ経営戦略を実現するための人事戦略について、ストーリー性をもって示すことが重要となろう。人的資本の開示を通じて、経営戦略と人事戦略に対する本質的な議論が深まり、企業価値向上に繋がることを期待したい。

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