2013年11月20日
「ビジョンと戦略を策定し中期経営計画を立案したが、従業員が動かない。どうすればよいか。」とご相談を寄せられることがある。
このようなケースでは、ビジョンや戦略など新しい方針を作るところまでがゴールになっていることが多い。ビジョンや戦略を華々しく発表した後、具現化するための行動計画の立案や遂行は管理職に“丸投げ”をして、結果だけを見て「従業員が動かない」とお嘆きのように感じる。ビジョンの実現に必要なのは、方針を打ち出した後の「従業員が動く」ためのしくみ作りとしくみを動かす取組みにかかっていると言っても過言ではない。
以下に効果的なしくみや取組みの一例をご紹介したい。
■目標設定と進捗確認のワークショップ
管理職が自ら設定した目標や行動計画を拝見する機会があるが、中期経営計画と方向性が一致しており、明確かつ具体的で、難易度が適切な内容は、残念ながら決して多くはない。まずは各管理職が設定した目標や行動計画が適切であるか検証をすることが第一歩となる。
さらに上司による検証だけではなく、管理職を対象としたワークショップの実施をお勧めしたい。このワークショップは、管理職がお互いの「目標と行動計画」や「進捗と課題」を共有し検証しあうものである。目標や行動計画の質を高めるだけではなく、議論を通じた横連携の強化、相互理解、成功・失敗事例の共有、一体感の醸成、達成のコミットメントを引き出すなど多くの効果がある。この効果を高めるためには1回で終わらせるのではなく、定期開催としたい。また、社外ファシリテーターを活用して外部の視点を取り入れたり、通常の会議とは分けてオフサイトミーティングの形式で行ったりすることも有効だ。
■定量指標KPIとKBIの設定と共有
組織レベルではKPI(重要業績評価指標Key Performance Indicator)、個別の従業員には具体的な行動目標KBI(重要行動評価指標Key Behavior Indicator)を示すことが有効である。
多くの従業員にとって、ビジョンや戦略は遠い世界の話であり、目の前の日々の業務とリンクしているという実感が乏しいことは多い。当然、ビジョン達成のために自らがどのような行動をすべきか理解できていない。「自らがしっかり考えるべきだ」という指摘もあろうが、限られた期間で確実に目標を達成するには、適切な目標と具体的な行動を示して、全員の行動を変えることが近道である。
いずれも定量目標なので進捗や結果を確認しやすい。進捗をイントラネットなどで公表し全社で共有することもお勧めだ。この時に数値だけではなく、達成度が高ければ“スマイル”や“青信号”、低ければ“泣き顔”や“赤信号”などを表示して進捗の可視化に遊び心を取り入れてもおもしろいだろう。一目で現状が把握できるだけではなく、従業員がゲーム感覚で「うちの部のKPIを“スマイル”にしていこう!」となればしめたものだ。苦しくなりがちな取り組みを「楽しい」に変える工夫も大切だ。
■管理職のスキル向上
定量指標の目標も示すだけではなく、個々のレベルに応じた支援・指導、適切なフィードバックなど、管理職による実行支援が求められる。いずれもマネジメントの基礎中の基礎である。ところが数多くの管理職から「わかってはいるが、具体的にどうしてよいかわからない」という声をお聞きする。管理職に対しては、定期的な研修によって具体的な方法を伝授し、繰り返し訓練することが不可欠である。
■人事制度の適正化
定量・定性いずれも目標を達成したときには、公正に評価して昇給や昇格で報いることも必要条件である。やっても報われないのであれば、「従業員の動き」は止まってしまう。評価要素はもちろん人事制度が会社の目指す方向性と一致しているかの検証と改定は欠かせない。
ビジョン策定や戦略立案は、エース級の従業員が参加する華々しいプロジェクトであろう。しかし、作って発表したところがゴールでは、一部従業員の自己満足になってしまいかねない。全従業員がビジョンに向かって活き活きと動くためには、従業員の具体的な行動変化を促す一つ一つのしくみや取組みに心を砕くことが重要となる。従業員が日々の業務を通じて認識できる具体的な目標を示し、管理職のマネジメント力の向上を愚直に繰り返し、些末にも思える評価要素の見直しをすることまでが求められるだろう。まさにビジョンの神は細部に宿る(※1)のである。
(※1)「神は細部に宿る」は、ドイツの建築家ミース・ファンデル・ローエの言葉といわれる。本当によい作品は、細部(ディテール)をみればわかる。ディテールを疎かにしては全体の美しさは得られないという意味。
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