2012年01月18日
近年、従業員の健康を大切にし、会社の収益性を高める「健康戦略」が注目を集めている。健康戦略とは、企業が従業員の健康に配慮することによって従業員の士気や生産性を高め、経営面においても大きな成果が期待できるとの基盤に立って、健康管理を経営的視点から考え、戦略的に実践することである。そして、健康戦略においては、健康保険組合と母体企業(=事業主)の連携はきわめて重要であると言われている。
では、実際に連携した取り組みは行われているのだろうか。健康保険組合の立場から検証してみる。
- 2010年12月~2011年3月に大和総研が270組合を対象に行ったアンケートにおいて、「健康保険組合の運営が企業経営を大きく左右する時代になったと言えるが、このような環境下、貴組合の事業主との関係は以前と比較してどのように変わって きているか。」という質問に対し、6割以上が「ますます重要になってきている」と回答している。
- 2011年9月~2011年12月に大和総研が数十組合に個別訪問した際のヒアリングでは、現状の課題について「事業主との連携がない(足りない)」という声が多く聞かれた。
- 2008年の健康保険組合連合会の調査報告書によると、健康保険組合の運営基準にもある「健康管理事業推進委員会(被保険者、専門スタッフ、事業主、組合事務局の4者から構成)」を設置していない組合が3割強もあることが報告されている。
以上より、健康保険組合と母体企業が連携した取り組みを重要と考えている組合は多いが、実際に取り組んでいるのはごく一部の組合に限られており、大部分はまだあまり実践できていないという現状がうかがえる。
連携した取り組みができていない理由としては、「母体企業が従業員の健康に関心がなく、健保の声に耳を傾けてくれない。」や「母体企業独自で健康対策を行っている。」などが考えられる。このような状況下においては、健康保険組合からの積極的に働きかけが必要であり、ここではその案として二点を挙げる。
第一は、「健康保険組合の存在意義をきちんと伝えること」である。健保の役割の一つである「健康管理・健康増進」は医療費削減だけでなく、従業員の生産性の向上等の効果が得られ、また企業におけるリスクマネジメント(※1)としても重要である。つまり、『健保組合は経営のパートナーである』であるということを認識してもらうことが必要になる。
第二は、前段でも記載した「健康管理事業推進委員会を設置すること」である。母体企業から人事総務部門の責任者に参加してもらうことで、健康の意義を社内に周知徹底する等の活動が進めやすくなり、ゆくゆくは母体企業が主体となった取り組みに発展してゆくことが期待できる。
健康保険組合と母体企業がコミュニケーションを活性化させ、双方にプラスとなる協力体制を築くことができれば相乗効果が期待でき、この相乗効果は従業員とその家族にとってもプラスになることは間違いない。健康保険組合から母体企業への積極的な働きかけがその第一歩であり、「健康戦略」の大きな鍵になるだろう。
(※1)例えば、安全配慮義務違反による過労死等が発生した場合、労働基準法・労働安全衛生法の罰則が適用されるだけでなく、高額の賠償責任を請求されることもある。労災の損害賠償は収益に影響を与え、かつ社会的信用の失墜など企業イメージを大きく損ねる可能性がある。
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