2009年10月07日
「民主党政権による影響の分析を行っている。」
このような声をIT関連企業の経営層から聞くようになった。ITとは、具体的な目的が伴って活用されるものであり、そのものが目的ではない。だからこそ、民主党が行う施策は、IT関連企業が提供するビジネスに大きなインパクトを与える可能性がある。企業は、厳しい経済環境下で、新しい変化を的確に捉え、自社のビジネスモデルに昇華させることが生き残りの道であると危機感を抱いている。
現在、民主党政権は、仙谷由人行政刷新担当相の下、自民党政権にて進められた平成21年度補正予算を精査する作業を進めている。アニメの殿堂といわれる国立メディア芸術総合センター(仮称)事業や、公立小中学校に電子黒板などを配備する学校ICT(情報通信技術)環境整備事業などが話題になっているが、近々に見直し最終案が発表される見通しである。これは、民主党の政権公約のうち、来年度から実施する施策に必要な財源確保が目的であるとされている。
来年度以降の施策については、「民主党の政権政策Manifesto2009」及び「民主党政策集 INDEX2009」に掲載された様々な各論レベルで議論が行われるものと思われる。例えば、通信・放送委員会(日本版FCC)の設置、電波の有効利用(電波のオークション)、インターネット選挙運動解禁、レセプトオンライン請求の原則化(「完全義務化」から「原則化」へ)などである。加えて、「i-Japan戦略2015」との整合性も注目されるところである。
しかし、個別の政策を個々に進めることによる弊害もある。これは、政策効果としてアクセルとブレーキの関係に例えられるように、具体的な政策目標を実行しようとすると、他の政策目標とトレードオフになることがあるためである。このような場合、どちらかの政策目標を犠牲にするか、又は政策手段を増やすこと(ポリシー・ミックス)が必要である。これは、ティンバーゲンの定理といわれ、独立した一つの政策は一つの効果しかもたらされないというものである。民主党のマニフェストには、各政策を実施した際のマクロ経済や財政の全体像が示されていない。つまり、個別の政策間のバランスを調整して、現実性の高い政策に落とし込むための国家戦略策定機能の整備が急務であろう。
まさに、IT政策の具現化としての予算に民主党政権の新しい風を吹き込むのはこれからである。新政権には、IT政策立案に際して、その立案プロセスを広く国民に説明するともに、納得性が高いオープンな議論を期待したい。当サイトでは、今後の民主党政権におけるIT政策についてウォッチしていく予定である。
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