地域・パブリック
公益性のコスト

2009年7月8日

地方公営企業や第三セクター等の赤字には、経営が能率的でないことによるもののほかに公益性のコストによるものがある。放漫経営等による赤字について、次の「第三セクター等の抜本的改革等に関する指針」 (平成21年6月23日付総務省通知)はそれを補てんする目的の公的支援を戒めている。「原則として公的支援は、公共性、公益性を勘案した上で、その性質上当該法人の経営に伴う収入をもって充てることが適当でない経費及び当該法人の事業の性質上能率的な経営を行ってもなおその経営に伴う収入のみをもって充てることが客観的に困難であると認められる経費に限られるものであり、単なる赤字補てんを目的とした公的支援は行うべきではない

これをみると公的支援には2つのタイプがある。ひとつは公共サービスの委託代金である。第三セクター等から提供を受けたサービスの対価であり「その性質上当該法人の経営に伴う収入をもって充てることが適当でない」ものである。受託する側からみれば「内部売上」とも言えよう。体育館や文化ホールなど公的施設の管理を請け負うときの受託代金はこれに当たる。

もうひとつは公益性のコストに対するものである。採算ラインを上回る需要が見込めないなど、「当該法人の事業の性質上能率的な経営を行ってもなおその経営に伴う収入のみをもって充てることが客観的に困難であると認められる経費」 に充てられる。「単なる赤字補てん」とは違う、公益性のコストにかかる赤字補てんである。もっとも必ず赤字になるというわけではないが。

これと、経営が能率的でないことによる赤字を分別することが、地方公営企業や第三セクター等の赤字をみるポイントだ。善後策の切り口が異なるからだ。放漫経営等によるものは、その道のプロフェッショナルに経営を任せ、売上増加や経費削減などを図り能率性を高めることが解決策となる。公益性のコストは改善努力を尽くしてなお残る赤字である。これについては公益性の観点から赤字補てんを続けるかどうかの判断であり、地域住民の必要度合と自治体の支援余力に属する問題となる(※1)

そもそも、都市施設を地方につくろうと思えばスケールメリットが働かない分程度の差はあれ採算がとりにくくなる。東京その他の大都会にはクラシック専用のコンサートホールや大規模なミュージカルの常設劇場が複数あるが、それも数百万人の支持人口があるからこそだ。民間企業にとって、こうした分野は地方で参入しにくい。人口当り利用率を確保したとしても、もともとの支持人口が少なければ、分野にもよるが事業の適正規模に基づく損益分岐点にとどかないおそれがある。スケールメリットが享受できない分のコスト高はその一部が料金に転嫁されるだろうが、それにも限界がある。

とはいえユニバーサルサービスの観点から地方にも必要な都市施設がある。高度救急医療を担う総合病院は救急車の搬送可能半径内にひとつは欲しい。下水道も一定以上の集積がないと非効率ではあるが、都市衛生の観点からは必要だ。バスなど公共交通も然り。このように広く社会的便益をもたらし住民に求められている都市施設は、自治体が相応のコストを払ってでも維持している。

損益計算書のフレームワークを踏まえていえば、公益性コストの負担とは、税金等の公的資金を繰出し、これでもって地方公営企業や第三セクター等の総費用の不足分を補てんすることである。ここで総費用とは初期投資を含めた概念であり、ランニングコストのほかに施設整備費ないしこれに要した借入金の償還費を含む。だから厳密にいえば赤字補てんに限らない。損益計算上黒字であっても償還費を賄うに至らなければ、その不足するキャッシュフローが公益性のコストに相当する(※2)

キャッシュフロー不足を補てんする形はいくつかある。サービスを自治体が買い上げて売上を増やすこともあろう。自治体が再開発ビルのフロアを自ら借り上げるようなケースがある(※3)。黒字幅が施設整備の償還費に足りないので、施設整備に要した借入金の元利返済費を自治体が補てんするケースもある。施設設備を自治体が保有し格安あるいは無償でレンタルするケースも、地方公営企業や第三セクター等の帳簿上には表れないが本質的にはキャッシュフローの補てんと同じである。

事業を売却しようとしたときに公益性のコストの問題が顕在化することがある。民間企業が事業を買収するに際して、事業の赤字(または収支利回り不足)をどう解釈するか。買収をもくろむ側にとって、経営が能率的でないがゆえの赤字は企業の「伸び代」つまり成長余地とうつる。いっぽう、公益性のコストは腕利きの経営者でも解消するのは容易でなく、最終的にはキャッシュフロー補てんの継続も考える。結果的に、自治体がサービスの買取保証をしたり、本来必要な料金値上げ分を自治体が補てんするケースもあるだろう。過疎地のバス会社を例にとればわかりやすいだろうか。また、運営のみ引き取って施設設備は格安または無償でレンタルするケース、施設設備費に相当する元利補給金を繰り入れるケースも想定される。

公益性のコストがキャッシュフローで補てんされないとすると、低い収益性でも元がとれるような水準まで事業の売却価格が下がってゆくと考えられる。こうしてみると、事業の民営化を考えるにあたっても、やはりポイントは公益性にかかるコストを合理的に見積もることだと思う。

(※1)自治体の支援余力については次の関連記事を参照されたい。
コンサルティングインサイト「地方公営企業をみる3つの視点」2009.04.22
(※2)下表は親自治体からの支援受入と損益計算の関係を示したもの。事例では、経常収益に属する補助金収入がなければ経常赤字(5億円の黒字→15億円の赤字)に転落することに注意。赤字を隠すための補助金収入となっていないかチェックが必要である。

平成X年度 損益計算書

(※3)公共サービス委託代金か単なる赤字補てんか微妙なケースもある。空きテナントが埋まらないがために自治体の施設が入居するケース、通常より高い賃料を支払うケースなど。たとえば、適正額を上回る額の賃料の支払の差止めを求める住民訴訟に関連して、平成20年6月26日、大阪地裁は、大阪市がワールドトレードセンタービルに支払う賃料が「適正賃料」より1.5~1.6倍程度高いと判断した。もっとも他の賃借人と比べ突出して高いものではないとして請求そのものは棄却。

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