銚子市立病院が経営悪化の末昨年9月に休止した。その後、病院存続を主張する市民グループが市長のリコールを提起、住民投票を経て成立に至った。休止に至った原因のひとつが、銚子市が財政難により補助金を支給できなくなったことだ。公立病院など地方公営企業の経営悪化は、その地方公営企業だけの問題ではなく、設立市町村の財務状況や住民サービスの水準維持にも絡んでくる。
本稿では地方公営企業の経営の見方について若干の考察を行なう。地方公営企業といえども企業体にはかわりなく、経営状況をみるにあたっては企業財務分析の方法が基本となるが、公的サービスの担い手であるがゆえの事情も加味する必要がある。また、企業経営における採算性の視点のみならず、社会的必要性の視点、設立市町村の財政支出力の視点を加えた3つの視点とそのバランスを総合的に判断すべきであると考える。
採算性の視点~採算性が発揮されているか
企業分析にあたっては、利益率など収益性指標の検証からはじめることが多いだろう。病院ならば経常収益対経常利益率などである。地方公営企業も、公共の福祉が本義でこそあれ企業の経済性を発揮するように運営されなければならないし、独立採算制原則のもと経営に伴う収入で経費を賄うことが求められている。この観点から地方公営企業(※1)の経営指標にも「経常収支比率」がある。経常費用に対する経常収益のカバー率で表され100%を超えれば経常黒字を意味する。もっとも公営企業の本義に照らし、収益性というよりも採算性または効率性の指標として理解するのが適当だろう。
地方公営企業の収益性指標をみるにあたって留意すべきポイントは表面上の利益とともに繰入前の利益もみることだ。表面的には黒字であっても、繰入金を経常収益から除くと赤字となるケースもある。設立市町村から受け入れる繰入金で赤字を補てんしていないだろうか。民間病院はそうした繰入金を通常受け入れていない。効率性または採算性の観点で事業運営の実力をみる場合、民間企業に照らしてみるときは繰入前の利益を比較する必要がある。病院を例に話したが、上下水道や交通事業でも方法は同じである。
社会的必要性の視点~財政支出を上回る社会的必要性があるか
一方、収益性指標をみるにあたって一般企業と違うのは、実質的に利益を計上していないからといって経営のやり方が悪いと判断するわけにもいかないことだ。そもそも、立地や業種からみて採算の見込みが立たず民間企業が進出しないので公共セクターが経営しているのかもしれない。大事なのは、繰入金、出し手からみると財政支援の水準が、公営企業の社会的必要性に見合ったものであるかどうかだ。常に一定の空きベッドを確保しておかなければならない救急医療など、一般会計等の財政支出が法的に認められているケース(※2)もある。また、産科や小児科など不足しがちな診療科目、高度または特殊な医療分野、山間地や離島など採算をとりにくい地域に必要な医療サービスを公立病院が担わざるをえない場合、その病院に対する財政支援は地域医療の維持コストとして理解されるだろう。もちろん、企業の経済性が活かされ支出額が十分に節約されていることが前提となるが。
社会的必要性を計測するにあたり金額的に示すことは難しいが、例えば病床利用率や患者数、下水道事業であれば水洗化率など稼働率指標を使って客観的に示すことができるだろう。また、ベッド数、手術件数、検査件数などの地元占有率や競合民間病院の状況から民業補完性、つまり仮にその病院が廃止となった場合の影響の大きさという観点で社会的必要性を類推するのも一考だ。
財政支出力の視点~財政支援を行なう体力が地方公共団体にあるか
最後は、設立母体の財政余力の視点である。設立市町村の財務状況からみて、地方公営企業に対する財政支援を継続することができるかどうか。例えば、行政キャッシュフロー計算書でいうところの行政経常収支が債務水準に比べて小さい、まして赤字だった場合、地方公営企業への財政支援を今のまま続けていくことは困難だろう。行政支出全体の大きさに比べ当該企業への補助費等または繰出金が目立って大きいケースでは支出額の圧縮さえ迫られるかもしれない。経営改善によって支出額を節約できるのであれば早急に実行すべきであるが、できなければ事業を縮小するか、あるいは設立市町村の支出、例えば職員給与費や種々の福祉費を削減するなどしていずれ帳尻を合わせる必要があろう。地域医療の確保か、産業振興か、はたまた福祉の充実か、お金の使い道について共通の土台に拠った建設的な議論が望まれる(※3)。
図解 3つの視点のバランス

(※1)法適用企業(地方公営企業法の全部又は財務規定を適用している事業であり、経理事務を企業会計方式で行なっているもの)の場合
(※2)いわゆる基準内繰出金のこと。地方公営企業法において、次の経費で総務省が通知する「繰出基準」に合致するものは一般会計等からの繰入金で賄われることが認められている。
・その性質上当該地方公営企業の経営に伴う収入をもって充てることが適当でない経費
・当該地方公営企業の性質上能率的な経営を行なってもなおその経営に伴う収入のみをもって充てることが客観的に困難であると認められる経費
(※3)コラム「行政キャッシュフロー計算書の利害調整機能」(2009年2月13日)を参照のこと
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