AIエージェントは人々の生活をどう変えていくのか(前編)

エージェンティック・コマースの現在と将来展望

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2026年07月06日

  • イノベーション企画部 ITリサーチャー 服部 匡起

はじめに
自律性を持って人間の判断や行動を補助し、場合によっては代替するAIエージェントが注目されており、その活用範囲は日を追うごとに拡大している。
最近では商取引分野にまで活用範囲は拡大し、McKinseyは、2030年までにAIエージェントが仲介するグローバルの消費取引が3〜5兆ドル規模に達すると試算している(※1)。また、国内市場に関しては、みずほ銀行産業調査部のレポートにおいて「AIによる買物代行による販売額は、2040年に6.6兆円」に達するとの予測を示している(※2)。
そこでこの特集記事では、前後編の2回に分けて、個人の経済活動を、労働や事業によって得られたお金(所得)を「使う(購買)」「貯める・増やす・借りる(貯蓄・投資・借入)」、「備える(保険)」に大別し、主な商取引である「使う(購買)」を出発点として、AIエージェントがどこまで判断や行動を代替しうるのか、また、AIエージェントの活用に重要な要素について考察する。前編となる今回は、主な商取引である「使う(購買)」をテーマに、AIエージェントの現在と将来展望を探る。

AIエージェントによる購買体験の変化
買い物の際に生成AIにどんな商品を買えばいいか相談したことはないだろうか。こうした行動は、約30年のEC(eコマース)の歴史において、大きな転換点となりつつある。例えば、「部屋に合う家具」「友人への手土産」など、漠然としたイメージはあるが明確な商品が浮かんでいない場合、生成AIと対話を重ね購入候補を決定するといった場面が想定される。そして、それらの候補を基にECサイト(または店舗サイト)で商品を探し、カートに入れてレジに向かう。レジではクーポンコードを入力し、キャンペーンを適用して、クレジットカードで決済し、商品が自宅に到着するのを待つ。
こうした購買行動を生成AIのチャット画面上で完結できれば、利用者は画面を移動することなく、より円滑な購買体験を得られる。その実現には、購買に伴う具体的な操作を実行し、関係する手続きを調整する主体として、AIエージェントが必要となる。
では、こうしたAIエージェントによる購買「エージェンティック・コマース」にはどのようなことが求められ、どんな価値を提供することが期待されるのだろうか。


AIエージェントによる購買の勘所
ECサイトにおける購買プロセスは、概ね以下の6段階に整理される(表1)。

表1 ECサイトにおける主要な購買プロセス

ここで、各プロセスにおけるAIエージェントの役割を考える。
商品検索では、顧客の曖昧な希望への対応が価値の源泉になる。的確な回答を行うためには、その商品を検索するためのチャットだけでなく過去のチャット履歴やスケジュールアプリの情報なども利用することでより的確な商品提案が可能となる。
商品比較・選択では、いくつかの商品候補を比較しながら、最終的な購入商品決定を支援する。仮に在庫が不足していればそれを通知し、入荷時期の提示や商品予約の提案も必要となる。
カート管理では、最終的な商品の在庫確認、最適なクーポンの適用、商品間の互換性チェックや値下げ時の通知などが期待される。
注文情報入力では、配送先住所の確定や注文内容の最終確認が行われる。ここでは、住所や送料といった正確な情報をECサイト側のデータと同期することが必須となる。ここで、スケジュールアプリから購入した商品を使う予定を推察できれば、商品到着日との前後関係から速達を勧めるといったことも可能となる。
注文確定・決済では高い精度と信頼性が要求される。二重決済の防止や決済エラー時の処理なども正確に行う必要がある。
注文管理では、配達日の通知や再配達の依頼といった機能が期待される。また、商品に関する問い合わせや返品といった曖昧さを含む処理も実行する必要がある。
このように、AIエージェントによる購買では、曖昧なニーズを読み解いて商品を提案する文脈理解と、取引を正確に遂行する正確性の両立が求められる。

共通ルールの必要性
ECサイトにおける購買プロセスは、それ自体がECサイトの商品の一部でもあり、各社が優良な顧客体験を追求して、様々な仕様で実装している。
AIエージェントが人間の代わりに複数のECサイトを横断して購買を行うためには、そうした各社で異なる購買プロセスの仕様を理解し処理する必要が生じるが、汎用的なAIエージェントが全てのECサイトに個別に対応することは現実的ではない。人間であれば画面表示を解釈し必要な情報を確認・入力できるが、AIエージェントにとっては、在庫の有無、数量指定、配送条件といった状態管理を、サイトごとに異なるルールで処理する必要があるため、統一された表現・手順が存在しない限り、横断的な購買を正確に行うことは困難である。
すなわち、各ECサイト固有の実装を超えて、商品選択から決済完了までの状態遷移を共通の形式で記述・実行できる仕組みとして購買プロセスの「共通ルール」が必要となる。
では、各ECサイトが独自に構築してきた購買体験をどのように共通ルール化すればいいのだろうか。

購買の共通ルール「プロトコル」
こうした問題点に対して、OpenAIとGoogleはAIエージェントが活動するための共通ルールを「プロトコル」として提唱し、整備を始めている。ここでは、両社が提唱するプロトコルを概観し、その違いを考える。両社ともユーザー接点となる自然言語によるやりとりはChatGPTもしくはGeminiが担い、その裏側でECサイトや決済事業者との情報伝達を支える仕組みとしてプロトコルが活用されている点は共通している。
一方で、OpenAIの提唱するACP(Agentic Commerce Protocol)とGoogleの提唱するUCP(Universal Commerce Protocol)は、現時点では一見すると類似の機能を持つが、ECサイトとの連携方法に違いがある。
まずACPに関して、ここでは、ACPの実装例であるChatGPTを参考にECサイトとの連携を確認する。OpenAIはECサイトに対して、ACPを利用してChatGPTに商品情報を提供するように定めている(※3)。これにより、商品データはChatGPT側に集約される。ChatGPTはECサイトごとにバラバラな商品情報をACPという共通言語を通して理解し、ユーザーの意図を読み解きながら正確な商品提案を行う。
ChatGPTが正確な商品データを回答に反映できるのはACPによって提供されたデータに限定されるため、ChatGPTのユーザーにアプローチしたいECは、ACPを用いたデータ提出が必要となる。
これに対して、GoogleのUCPはEC側が商品データを提出することを前提とはしない。エージェントがUCPに準拠して構造化された商品情報を収集するというウェブ検索の構造に似た考え方を採用している。事前の商品データ提出は必須ではないため、EC側がUCPにより商品情報を構造化していればAIエージェントは正確な情報を取得できる。EC側の立場で考えると、UCPに準拠して商品情報を整備することで、AIエージェントによる情報収集を促しやすくなる。
なお、決済を安全かつ確実に実行するために、UCPでは決済部分を別のプロトコルAP2(Agent Payments Protocol)に連携して処理する。AP2は、ユーザーが購買権限をエージェントに付与したことを示す「承認」、エージェントの要求がユーザーの真意に沿っていることを販売者が確認できる「真正性」、そして不正・誤取引が発生した場合に責任の所在を明確にする「説明責任」という3要件を、エージェントとのやりとりの中で暗号化されたデジタル契約を事前に作成し、記録・検証する仕組みによって担保する。こうした仕組みにより、AIエージェントが人間の代理として決済を行う場合でも、決済プロセスに信頼性を提供する設計となっている。
ここまでの内容をまとめたものが表2となる。

表2 エージェンティック・コマース関連プロトコルの整理

先行事例から見る教訓と挑戦
もっとも、プロトコルの整備だけで購買体験が完成するわけではない。
OpenAIがACPを活用したサービスとして提供していたInstant Checkoutの事例を取り上げる。同サービスはChatGPT上の会話の中でAIがユーザーの意図を踏まえて商品を提示し、商品検索から購入・決済までを一体的に完結できる仕組みとして2025年9月にリリースされたが、翌年3月に約5カ月という短期間で事実上サービスを終了した(日本では未リリース)。現在は、ChatGPTの画面から商品を購入する場合、チェックアウト部分は各ECサイトに遷移するか、ECが作成したChatGPTミニアプリを利用することで購入が完了する。
早期のサービス終了に関しては複数の背景(※4)が指摘されている。商品在庫数や割引情報等の商品データがリアルタイムで同期されていなかった点や購入者の購買履歴やリワードプログラムへの加入状況などの正確な情報が連携されていないことが指摘されていた(※5)。また、Instant Checkoutは1取引につき1商品のみ購入可能であり、複数商品の購入には対応していなかった。
こうした状況から、Instant Checkoutでの検索後の購入完了率は比較的低調だったようである。例えば、ウォルマートでは、ChatGPT内での購入完了率は自社ECサイトとの比較で約1/3にとどまっていたとの指摘もある(※6)。OpenAI自身も「Instant Checkoutの初期バージョンでは、私たちが目指す柔軟性を十分に提供できていない」ことが判明したとしている。
その後、OpenAIはInstant Checkoutを見直し、ChatGPTによる商品発見(Product Discovery)機能の強化へと軸足を移した。具体的には、商品比較や選定をAI内で効率的に行い、最終的な購入は各ECサイトに委ねる形へと再設計されることになった(※7)。
こうした課題が浮き彫りになる中で、Googleは、本年5月19日の開発者会議「Google I/O 2026」において、Universal Cartを発表した。今夏に米国市場のGoogle検索とGeminiアプリから展開される。将来的にYouTubeおよびGmailにも対応予定となっており、Googleサービスの様々な利用シーンから商品をカートに追加できるようになる。
Universal Cartのもう一つの特徴は、従来のECサイトごとに分断されたカートとは異なり、Googleアカウントを基盤として購買状態を統合管理する点にある。すなわち、異なるECサイトの商品をUniversal Cartにまとめて投入・保存できる。さらに、裏側でGeminiが稼働することで、価格監視、在庫確認、クーポン探索、代替商品提案、商品同士の互換性チェックなどをリアルタイムで実施し、ユーザーの意思決定を支援する。決済部分ではAP2と連携し外部決済事業者を選択するか、Googleウォレットに保存された決済手段を選択して決済を行う。Universal Cartの全体イメージは図1の通りとなる。

図1 Universal Cartの全体イメージ図

今回取り上げたUniversal Cartから、Googleの次の動きを考えてみたい。Googleは、GeminiとUniversal Cartを通してGoogleサービス上の行動データを購買体験に活用しようとしていると考えられる。GeminiはすでにGmailでのやりとりやGoogleカレンダーのスケジュールなどGoogle Workspaceのアプリケーションを参照して回答できる。そのため、将来的にはWorkspaceにある様々なユーザーの行動データに基づいて文脈を把握し、高度にパーソナライズされた商品提案に発展していく可能性が考えられる。

おわりに
ここまで見てきたように、個人の経済活動のうち「使う(消費)」に関しては、コマースやペイメント分野のプロトコル整備が急速に進み、すでにAIエージェントがその一部を担える状況が整いつつある。
しかしながら、消費者が実際に納得するような購買体験の提供は道半ばである。先に述べた通り、AIエージェントによる購買体験の提供には、文脈理解と正確性が不可欠である。プロトコルの整備はこのうち「正確性」を担保するための前提条件を整えつつあるが、Instant Checkoutの事例が示すように、プロトコルが存在してもリアルタイムでの在庫・価格・購買履歴の同期が伴わなければ実用には至らない。すなわちプロトコルは必要条件ではあるが十分条件ではなく、実装層におけるデータ連携の深さ(ECが持つポイント等の各種顧客情報)が成否を分ける段階に入っているといえる。EC側がAIエージェントとの連携に備えることが今後必須となるが、そこでは商品情報だけでなく自社が保有する顧客データを顧客の同意の下でAIエージェントへいかに連携させるかという新たな対応が求められることを意味する。
加えて、より本質的な課題は「文脈理解」をいかに実現するかにある。文脈を読み解くためには、取引履歴のような「何を持っているか」の記録から一歩進み、「なぜそうしているか」という意図を把握できるデータが必要となる。GoogleがUniversal Cartを様々なサービスに実装しようとしていることは、こうした「意図データ」を取り込もうとする現時点で有力な統合的なアプローチの一つと考えられる。こうした取り組みが、本年夏に予定されているUniversal Cartリリース以降、消費者・市場にどの程度受容されるのかは引き続き着目する必要がある。
次回は、個人の経済活動のうち今回取り上げなかった「貯める・増やす・借りる(貯蓄・投資・借入)」、「備える(保険)」といったファイナンス分野におけるAIエージェントについて述べる。

(※1)McKinsey The agentic commerce opportunity: How AI agents are ushering in a new era for consumers and merchants
https://www.mckinsey.com/capabilities/quantumblack/our-insights/the-agentic-commerce-opportunity-how-ai-agents-are-ushering-in-a-new-era-for-consumers-and-merchants 2025/10/17
(※2)みずほ銀行産業調査部 エージェンティック・コマース ~進化するAIと変容する消費者から選ばれる小売事業者へ
https://www.mizuhobank.co.jp/corporate/industry/sangyou/pdf/1080_22.pdf 2026/3/31
(※3)OpenAI Get Started Start your ACP integration by sharing a structured product feed. https://developers.openai.com/commerce/guides/get-started
(※4)他にも、商取引や決済に関わる規制・税制への対応も負担となったとされるが、これはAIエージェントによる商取引に参入するいずれの事業者にも共通する論点であり、Instant Checkout固有の課題ではない。
(※5)CNBC OpenAI revamps shopping experience in ChatGPT after struggling with Instant Checkout offering
https://www.cnbc.com/2026/03/24/openai-revamps-shopping-experience-in-chatgpt-after-instant-checkout.html 2026/3/24
(※6)CNBC OpenAI’s first crack at online shopping stumbled. It’s preparing for the next wave https://www.cnbc.com/2026/03/20/open-ai-agentic-shopping-etsy-shopify-walmart-amazon.html 2026/3/20
(※7)OpenAI ChatGPTでの商品探しをもっとスムーズに https://openai.com/ja-JP/index/powering-product-discovery-in-chatgpt/ 2026/3/24

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