「同一労働同一賃金」と日本の労働市場

~見られないジョブ型への動き~『大和総研調査季報』 2017年春季号(Vol.26)掲載

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2017年06月01日

  • 金子 実

サマリー

正規・非正規間の待遇格差の是正を目的として、「同一労働同一賃金ガイドライン案」(以下、「ガイドライン案」という)がまとめられた。本稿では、ガイドライン案の検討過程で参考にされた、企業横断的・雇用形態横断的に賃金が決定される欧州諸国のジョブ型の労働市場と類似したものに、日本の労働市場が移行しつつあるか否かについて、日本における平均勤続年数や年功賃金カーブのトレンドを企業規模別に分析することにより検討した。


その結果、全体の平均を見ると、日本的雇用慣行が弱まっているとも見えるが、企業規模別に見ると、企業規模間の差が縮小しており、その要因の一つとして中小企業における定期昇給制度の広がりが考えられることから、日本の労働市場においては、トレンドとしてもジョブ型の傾向が強まっているとは必ずしも言えないと考えられる。したがって、「同一企業内でのみ、同一労働同一賃金を考える」というガイドライン案は、長期的にも妥当であり続ける可能性がある。


非正規職員についても、正規職員と同様に評価が行われ、それに応じた待遇改善が行われることは、労働力人口が減少する中で、所得格差の是正策としてのみならず、成長戦略としても重要である。


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