米国における学生ローンの現状と危機

連邦政府の財政と米国経済の成長、人々の将来に影響を及ぼしている

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2017年12月28日

  • ニューヨークリサーチセンター 上野 まな美

サマリー

◆米国の家計負債は、リーマン・ショックが起こった2008年の7-9月期に最大であったが、その後、約5年間にわたって減少を続けた。しかし、2013年には再び増加に転じ、2017年7-9月期に約12兆9,600億ドルと過去最大に達した。学生ローンと自動車ローンの大幅な増加が、家計負債全体を大きく押し上げているためであり、特に、学生ローンが米国の家計負債の中で唯一増加し続け、住宅ローンに次ぐ負債額に膨れ上がった。


◆米国において、人々は大学を卒業することによって将来的に高収入の職に就くことを期待し、学生ローンで借入をしてでも大学に進学する傾向が強い。しかし、高騰する大学費用に比べて家計所得は2000年以来停滞しているために、人々は学生ローンの返済が困難になり、負債の増加につながっている。


◆学生ローンは他のローンと異なり、その大半は連邦政府から資金が拠出される。連邦政府は学生ローンの滞納に対する救済策として、滞納者の所得や家族の人数に基づいて無理のない返済額にする「所得連動型返済プラン(Income-Driven Repayment Plan: IDR)」を提供している。しかしながら、連邦政府が学生ローンの救済策を提供しても学生ローンの滞納率は拡大傾向にあり、連邦政府は増加する学生ローンに懸念を高めている。


◆今日、巨額となった学生ローンは人々の将来に影響を与えるのはもちろんのこと、連邦政府の財政、そして米国経済の成長に影響を与え、米国において避けられない重要な問題となっている。

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