サマリー
◆正規社員の有効求人倍率は0.99倍と歴史的高水準に達し、1倍超えが近づいている。そして1倍を超えた後も、景気後退等の循環的要因がなければ、構造的に同倍率が上昇を続ける可能性が高い。遠からぬ将来に正規社員も含めた本格的な賃金インフレが発生する可能性がある。
◆ただし、この賃金インフレが「内需の好循環」に火を点けるに至るまでには距離がある。賃金インフレの持続性は、相応の労働生産性の向上が並行して達成されるか否かに依存している。こうした生産性の向上は総じて時間を要するため、単位労働コストの上昇に苦しむ企業は当面、従来以上の「賃金カーブのフラット化」や「残業規制」などを通じて総労働コストの抑制を図る可能性が高い。
◆人手不足が深刻化する中、生産性向上に直結する省力・省人化に加え、収益改善を目的とした研究開発投資や合従連衡の動きには緩やかな拡大が期待される。しかしこれが設備投資全体の伸びを牽引するという期待は、いささか強すぎるかもしれない。
◆資本ストックの循環は成熟化の局面に近づいている。また、日本における設備投資の限界生産性は、総じて資本コストよりも、あるいは価格対比での労働の限界生産性よりも低い。さらに、生産性向上投資が必要とされる労働集約的産業ほど、投資を行う余力が小さいという「合成の誤謬」が発生している。結果として単位労働コストが上昇に向かえば、企業は「業容縮小」と「空洞化」のいずれか、ないしはその両方を選択肢として視野に入れることになるリスクには注意が必要だ。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
執筆者のおすすめレポート
同じカテゴリの最新レポート
-
主要国経済Outlook 2025年7月号(No.464)
経済見通し:世界、日本、米国、欧州、中国
2025年06月25日
-
立ち止まる金融政策、ただし一服ムードはない
2025年06月25日
-
日本経済見通し:2025年6月
トランプ関税による足元の影響は?/参院選の争点である家計支援策
2025年06月24日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
-
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日