サマリー
(1) 経済見通しを改訂:2011年10-12月期GDP一次速報を受け、2011-12年度の成長率見通しを改訂した。改訂後の実質GDP予想は2011年度が前年度比▲0.5%(前回予想:同▲0.3%)、2012年度が同+1.7%(同:同+1.8%)、今回新たに予測した2013年度が同+1.4%である。
(2)消費税引き上げを巡る5つの論点:現在、わが国では消費税引き上げの是非を巡る論議が高まっている。本予測では、消費税引き上げを巡る5つの論点について検討した。当社は、わが国では高齢化が進展し財政赤字が累増するなか、世界的な税制改革の潮流などに照らしても、消費税引き上げが急務であると考えている。第一に、グローバルなデータを用いた分析などからは、財政赤字の累増が経済に悪影響を及ぼす可能性が示唆される。特に、わが国では、将来不安が貯蓄率を押し上げている可能性が高い。第二に、消費税には、[1]水平的公平性・世代間の公平性、[2]経済活動への中立性、[3]高齢化社会に向けた税収の安定性、という3つの側面でメリットがある。第三に、「経済成長すれば、財政再建は達成可能」との考え方には大きな疑問が残る。第四に、海外の事例などを検証すると、消費税引き上げが必ずしも景気に大幅な悪影響を及ぼしている訳ではない、第五に、海外の財政再建の成功例などから得られる示唆として、わが国が財政再建を成就する鍵は社会保障費の削減にある。
(3)日本経済のメインシナリオ:今後の日本経済は、メインシナリオとして、東日本大震災発生に伴う「復興需要」に支えられて緩やかな景気拡大が続く見通しである。2011年の夏場以降、「欧州ソブリン危機」の深刻化などを背景に、日本経済・世界経済の減速懸念が強まってきたが、足下では、米国を中心とする海外経済に持ち直しの兆しが生じている。当社の試算では、復興関連予算は、2012年度のわが国の実質GDPを1%程度押し上げるとみられる。さらに、「資本ストック循環」などの面から見て、設備投資の緩やかな改善が見込まれることも、日本経済を下支えする要因となろう。
(4)日本経済の4つのリスク要因:日本経済のリスク要因としては、[1]「欧州ソブリン危機」の深刻化、[2]地政学的リスクを背景とする原油価格の高騰、[3]円高の進行、[4]原発停止に伴う生産の低迷、の4点に留意が必要である。第一に、欧州諸国の国債のヘアカット率に関する3つのシナリオを設定した上で、日本経済に与える影響を算定したところ、最悪のケースでは、わが国の実質GDPは4%以上押し下げられる可能性がある。今後の「欧州ソブリン危機」の展開次第では、日本経済が「リーマン・ショック」並の打撃を受ける可能性が皆無ではない。第二に、イラン情勢緊迫化などを背景に原油価格が高騰した場合、日本企業の交易条件悪化などを通じて、日本経済が「ミニ・スタグフレーション(不況下の物価高)」に陥るリスクがある。第三に、ドル円相場は、当面、75~80円前後の比較的狭いレンジ内で推移し、2012年下期にかけて円高・ドル安圧力が徐々に後退する公算である。米国で大統領選が実施される年は、ドル円相場のボラティリティが低下する傾向がある。第四に、仮に、わが国で全ての原発が停止した場合、実質GDPに対しては最大1%超の低下圧力がかかる可能性がある。
(5)日本銀行の金融政策:日本銀行は少なくとも2014年度いっぱい、政策金利を据え置く見通しである。円高が進行するなど、景気下振れ懸念が強まる局面では、日本銀行が、拘束力のあるインフレターゲットの導入や、基金の残高積み増しなどを含む、更なる金融緩和策に踏み切る可能性が高まろう。
【主な前提条件】
(1)公共投資は11年度+3.9%、12年度+7.6%、13年度▲3.9%と想定。14年4月に消費税率を引き上げ。
(2)為替レートは11年度78.5円/ドル、12年度77.0円/ドル、13年度77.0円/ドルとした。
(3)米国実質GDP成長率(暦年)は11年+1.7%、12年+2.3%、13年+2.6%とした。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
関連のレポート・コラム
最新のレポート・コラム
-
米GDP 前期比年率+2.8%と加速
2024年4-6月期米GDP:内需主導での堅調さを維持
2024年07月26日
-
監査・ガバナンス強化へ回帰する英国
昨年撤回した監査強化方針を復活し、ガバナンス・コードも厳格化へ
2024年07月25日
-
女性がキャリアを築ける職場ほど、子どもを持ちやすい
健保組合ごとの被保険者・被扶養者の出生率と、その要因の多変量解析
2024年07月24日
-
GX経済移行債に期待されるインパクトレポーティング
~GXの理解醸成促進に向けて~『大和総研調査季報』2024年夏季号(Vol.55)掲載
2024年07月24日
-
盛り上がりに欠ける英国の政権交代
2024年07月26日
よく読まれているリサーチレポート
-
「国債買入減額+利上げ」だけで長期金利は2%超えか
シナリオ別に見た日銀の国債買入減額による長期金利への影響試算
2024年06月12日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
-
第221回日本経済予測(改訂版)
賃上げ・物価高の先にある経済の姿と課題は?①賃上げ効果、②貿易デジタル赤字、③トランプリスク、を検証
2024年06月10日
-
「事業性融資の推進等に関する法律案」概要
事業性に着目した企業価値担保権の創設
2024年05月30日
-
バーゼルⅢ最終化による自己資本比率への影響の試算
標準的手法採用行では、自己資本比率が1%pt程度低下する可能性
2024年02月02日
「国債買入減額+利上げ」だけで長期金利は2%超えか
シナリオ別に見た日銀の国債買入減額による長期金利への影響試算
2024年06月12日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
第221回日本経済予測(改訂版)
賃上げ・物価高の先にある経済の姿と課題は?①賃上げ効果、②貿易デジタル赤字、③トランプリスク、を検証
2024年06月10日
「事業性融資の推進等に関する法律案」概要
事業性に着目した企業価値担保権の創設
2024年05月30日
バーゼルⅢ最終化による自己資本比率への影響の試算
標準的手法採用行では、自己資本比率が1%pt程度低下する可能性
2024年02月02日