日本経済見通し:将来的な「世界インフレ襲来」に備え、適切な政策対応を

(1)財政規律の維持、(2)経済の「供給サイド」の政策、の重要性が高まる

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2011年10月20日

  • 調査本部 副理事長 兼 専務取締役 調査本部長 チーフエコノミスト 熊谷 亮丸

サマリー

日本経済の下振れリスクに要注意:足下で海外経済の減速などを背景に日本経済の下振れリスクが強まってきたが、当社は、今後の日本経済は、メインシナリオとして、2011年度下期以降、復興需要に支えられて回復軌道を辿ると予想している。当社の実質GDP予想は2011年度が前年度比+0.1%、2012年度が同+2.6%である。ただし、日本経済のリスク要因として、(1)原発停止に伴う生産の低迷、(2)世界的な金融市場の混乱を受けた海外経済の下振れ、(3)円高の進行、の3つに細心の注意が必要となろう。

中長期的に見れば、世界経済の潮流は「インフレ」へ:今回のレポートでは、世界経済の中長期的な方向性について考察した上で、わが国がとるべき政策対応を指摘したい。筆者は、2011年9月に、東洋経済新報社から『世界インフレ襲来』という単行本を刊行した。筆者は、世界的な「デフレ」進行を警戒する世間一般の見方に反して、向こう3~5年程度の中長期的なタイムスパンで見れば、世界経済の潮流は「インフレ」に向かうと予想している。過去100年間程度の「金融危機」の歴史を検証すると、「(1)金融危機→(2)財政危機→(3)インフレ進行」というパターンが抽出できる。現在の世界的な経済環境を歴史的な観点から位置づけると、「金融危機」の第二ステップである「財政危機」から、米連銀による量的緩和政策第3弾(いわゆる“QE3”)の導入などを経て、第三ステップの「インフレ進行」へと移行する過渡期にあると考えられる。

日本経済の3つのリスク要因:世界経済の潮流が「インフレ」へと向かうなか、わが国では、(1)東日本大震災の発生、(2)高齢化に伴う民間貯蓄の取り崩し、(3)財政赤字の拡大、(4)これらの結果としての経常黒字の縮小、などの要因もあり、中長期的に金融市場の混乱が懸念される。かかる状況下で、日本政府は、以下の2つの政策対応を講ずるべきだ。第一に、今回の震災は、リーマン・ショックの様な「需要ショック」ではなく、「供給ショック」の側面が強い。今後、政府は電力不足の解消を中心とする「供給サイド」の政策を従来以上に重視すべきだ。さらに、中長期的な課題である、規制緩和、法人税減税、環太平洋経済連携協定(TPP)への参加などの「供給サイド」の政策も、着実に実行する必要がある。第二に、今回の震災の様な「供給ショック」が起きた際に最も警戒すべきは、「クラウディングアウト(大量の国債発行により金利が上昇し、民間の経済活動が抑制されてしまうこと)」の発生である。長期金利の上昇を防ぐ意味で、日本政府の「財政規律維持」に向けたコミットメントが不可欠だ。日本政府は、中長期的に世界経済の潮流が「インフレ」へと向かうリスクを認識した上で、「供給サイド」の政策と「財政規律維持」を2本柱に据えた、適切な政策対応を講じる必要がある。

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