サマリー
(1)経済見通しを改訂:2011年4-6月期GDP二次速報を受け、2011-12年度の成長率見通しを改訂した。改訂後の実質GDP予想は2011年度が前年度比+0.1%(前回予想:同±0.0%)、2012年度が同+2.6%(同:同+2.6%)である。
(2)グローバルな金融市場の混乱をどう捉えるか?:本予測では、グローバルな「金融危機」の歴史を検証することなどを通じて、足下のグローバルな金融市場の混乱について考察した。過去100年間程度の「金融危機」の歴史を検証すると「(1)金融危機→(2)財政危機→(3)インフレ圧力昂進」というパターンが抽出できる。最近のグローバルなリスク要因は、全て上記の枠組みの中で位置付けることが可能である。現状は、先進国ではデフレ懸念、新興国では先進国における過度な金融緩和の副作用などからインフレ懸念が燻るというきわめて不安定な構図になっている。今後の世界経済は、「金融危機」の第二ステップである、現状の「(2)財政危機」の段階から、米連銀による量的緩和政策第3弾(所謂“QE3”)の導入などを経て、「(3)インフレ圧力昂進」が懸念される状況へと向かうものと予想される。
(3)日本経済のメインシナリオ:今後の日本経済は、メインシナリオとして、2011年度下期以降、復興需要に支えられて回復軌道を辿る展開が予想される。現時点で、当社は、東日本大震災による、2011年度の実質GDP成長率に対する押し下げ幅は▲1.4%ポイント程度と試算している。
(4)日本経済の3つのリスク要因:日本経済のリスク要因としては、(1)原発停止に伴う生産の低迷、(2)世界的な金融市場の混乱を受けた海外経済の下振れ、(3)円高の進行、などに留意が必要である。仮に、わが国で全ての原発が停止した場合、実質GDPに対しては1%以上の低下圧力がかかる可能性がある。他方で、現状の米国では、世界大恐慌期やわが国の平成不況期とは異なり、(1)政策対応が迅速、(2)労働市場が柔軟、(3)金融システム不安が後退、などの理由から、財政・金融面の「出口戦略」を急ぐことがなければ、「デフレスパイラル」を伴う様な「長期構造不況」は回避される公算が大きい。為替相場に関しては、米国の通貨当局が、本格的な「ドル防衛策」に乗り出すか否かが焦点となろう。
(5)東日本大震災後の日本経済の構造変化と、今後の政策課題:東日本大震災の発生を受け、日本経済を取り巻く環境は、中長期的に見れば、(1)財政赤字の拡大、(2)経常黒字の縮小、(3)「円高」から「円安」、(4)「デフレ」から「インフレ(若しくは『スタグフレーション』)」、(5)長期金利は「低下」から「上昇」、という5つの構造変化を起こす可能性がある。今回の震災の様な「供給ショック」が発生した際に最も警戒すべきは、「クラウディングアウト(大量の国債発行により金利が上昇し、民間の経済活動が抑制されてしまうこと)」の発生である。今後、政策面では、(1)経済の「供給サイド」の政策(電力不足問題の解決、規制緩和、法人税減税、環太平洋経済連携協定への参加など)と、(2)「財政規律」の維持、の2点が従来以上に重要となろう。
(6)日本銀行の金融政策:震災発生の影響もあり、日本銀行は少なくとも2013年度一杯、政策金利を据え置く見通しである。円高が進行するなど、景気下振れ懸念が強まる局面では、日本銀行が「基金の積み増し」を中核に据えた追加金融緩和に踏み切る可能性が高まろう。
【主な前提条件】
(1)公共投資は2011年度+4.6%、2012年度+10.1%と想定。消費税率引き上げは想定せず。
(2) 為替レートは2011年度78.9円/ドル、2012年度78.0円/ドルとした。
(3) 米国実質GDP成長率(暦年)は2011年+1.7%、12年+2.5%とした。
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