技能実習制度の見直しの方向性を探る

強制労働発生要因である同制度の目的と実態の乖離をどう埋めるのか

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2022年11月28日

  • 矢澤 朋子

サマリー

◆米欧を中心に強制労働に対する姿勢が厳しくなっている。米国では2022年6月にウイグル製品輸入禁止法が施行され、欧州連合(EU)の欧州委員会は9月に強制労働を伴う製品のEU市場での流通を禁止する提案をしている。このような中、米国から強制労働と指摘されている日本の技能実習制度は、輸入停止などの事態の発生を回避するために、優先的に解決するべき課題の一つであると考えられる。

◆強制労働と指摘される要因として、実習実施機関における労働基準関係法令違反が定期監督等適用事業場よりも高い割合で発生しており、技能実習生(以下、実習生)からの相談内容でも同法令違反や技能実習法違反が疑われるものの割合が高いことが挙げられる。さらに、母国で借金をした実習生の割合は54.7%にのぼり、中でもベトナムは80.8%と非常に高く、債務労働に陥りやすい状況にいるといえよう。

◆実習生を取り巻く現在の状況には、技能実習制度の「国際貢献」「技能移転」という目的と「労働力確保」という実態との乖離からもたらされている部分が多い。両者の乖離を埋める方法は、①目的に即した運用を徹底する、②実態に即した制度に変更(労働力確保を目的とした特定技能制度に一本化)する、の二つが主に考えられる。ただし、いずれにせよ技能実習を経て特定技能になった者に対する強制労働の疑念や送出国での借金問題など、解決しづらい課題も残る。また、実習生の減少が更なる労働力不足につながることが予想されるため、日本政府は難しいかじ取りを迫られている。

◆他方で、日本政府は高度外国人材等を含めた日本の外国人労働者受入れ政策の全体図を提示し、その中で技能実習制度をどう位置付け、どのように改善すべきか、という視点も忘れてはならない。

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