資本のミスアロケーションが日本経済に与える影響

宿泊・飲食サービス業において資本装備率が過少

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2022年11月01日

  • 永井 寛之

サマリー

◆日本経済はバブル崩壊以降低成長を続けているが、その理由の一つに生産要素のミスアロケーションがあると先行研究等でも指摘されている。実際、1994年以降の実質GDP成長率をTFP要因、資本投入要因、労働投入要因、資本配分要因、労働配分要因に分解すると、主に押し下げているのは労働投入要因だが、近年は資本配分要因も押し下げている。

◆業種別に資本の配分の状況を確認すると、非製造業では資本装備率が過少な産業が散見される。資本装備率の過少感は特に宿泊・飲食サービス業で顕著で、2010年代では2000年代から一段と強まっている。背景には、不採算企業が市場に温存されており、企業の新陳代謝が低下していることなどが考えられる。また、労働コストが資本に比して安いことも過少投資の要因として挙げられる。

◆コロナ禍からサービス需要の回復が進み、労働需給のタイト化を通じて賃金が上昇すれば、宿泊・飲食サービス業における資本のミスアロケーションの改善が期待できるだろう。また、当該産業では中小零細企業が多く、大企業と比して資金調達コストが高い。M&Aなどを通した大規模化も資本の配分の改善に寄与するとみられる。中小企業のM&Aは公的な支援機関がハブとなるものの、キャパシティが圧倒的に足りない。このようなセクターに専門性がある人材が多く流入するためにも、官民連携に加え、専門人材の給与引き上げといった給与体系の見直しも重要になろう。

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