サマリー
◆新型コロナウイルス感染拡大による世界経済の急減速を受けて、信用リスク拡散への懸念が高まっている。資金循環の目詰まりによる信用リスクの幅広い伝播を避けるために、各国当局は思い切った経済対策をこれまで講じてきた。財政・金融が一体となった政策運営により、足元の経済の悪化には歯止めがかかりつつある。ただし、未曽有の規模の対策が相次ぐ足元の状況からは、コロナ禍以前に積み上がっていた高水準の債務が暴発することへの強い懸念も浮き彫りになったと言え、当面はその動向が注目される。
◆民間債務については、足元から債務削減への圧力が高まろう。民間債務の削減は、投資の減少等を通じて経済成長率の低下と一定の関係性が見られ、その規模がポイントとなる。今回のコロナ禍によって、リーマン・ショック時と同規模となる▲20%の信用収縮が生じた場合、米国の実質GDPを▲4.2%押し下げると見込まれる。また欧州についても▲5.8%、日本も▲2.7%押し下げるとみられる。
◆政府債務については、経済対策等により短期では一層の拡大が不可避だが、各国間の財政余力の差には注意が必要となる。一方で、長期的には過剰な政府債務が経済成長率を抑制する懸念があることから、財政規律維持への配慮も求められる。公的債務残高比が103%を超えて過剰になると、公的資本が十分に整備される中、外部効果が期待できない財政支出が増えることや、財政の硬直化やリスクプレミアムの上昇などへの懸念も生じやすいため、むしろ限界的には成長率にマイナスの影響が出てくる。足元では財政政策によって企業倒産や雇用悪化を最小限に抑えることが最優先課題だが、長期的には公的債務の管理に一層目を配らせることが重要になるだろう。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
メタバースは本当に幻滅期で終わったか?
リアル復権時代も大きい将来性、足元のデータや活用事例で再確認
2025年06月11日
-
2025年1-3月期GDP(2次速報)
実質GDP成長率は前期比年率▲0.2%に改善するも民間在庫が主因
2025年06月09日
-
2025年4月消費統計
総じて見れば前月から概ね横ばい、先行きも横ばい圏で推移しよう
2025年06月06日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
-
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
-
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日
日本経済見通し:2025年4月
足元の「トランプ関税」の動きを踏まえ、実質GDP見通しなどを改訂
2025年04月23日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
「反DEI」にいかに立ち向かうか
米国における「DEIバックラッシュ」の展開と日本企業への示唆
2025年05月13日
中国:関税115%引き下げ、後は厳しい交渉へ
追加関税による実質GDP押し下げ幅は2.91%→1.10%に縮小
2025年05月13日