サマリー
◆9月23日、英トラス政府が発表したミニ予算は金融市場を動揺させ、ポンドは対ドルで過去最低の水準にまで急落し、英国債市場はかつてないボラティリティを示した。英国債のパニック売りは、債務連動型運用(LDI:Liability Driven Investment)戦略を採用する英国の確定給付型年金基金の流動性危機が招いたといわれている。
◆英国での問題は、金利があまりにも早く上昇し、LDI戦略の証拠金管理が基金の平時の対応能力の限界を超えた点である。金利が急激に上昇し、LDI戦略のリスク管理規定で定めるレバレッジ基準を超えた場合はロスカットが必要になり、また、短期的には多額の証拠金差し入れが必要となる。今回の危機で年金基金は、LDIファンドを基金に代わって運用するファンドマネジャーや投資銀行からの追加証拠金要求にこたえるため、英国債を売却して現金を確保することに奔走した。
◆英国では1990年代前半から年金業界の混乱が目立つようになり、将来の積立不足への懸念が高まった。国際会計基準の導入に後押しされ、労働党政権下で年金債務が初めて母体企業のバランスシートに計上されるような法規制が取り入れられた。これは、従来は長期にわたり平滑化してきた年金資産・債務の時価の変動(数理上の差異と呼ばれるものの一種)を、発生した年の財務諸表で認識するように変更するものである。そのため、年金運用の短期的な変動を最低限に抑えることを目的に、多くの年金基金がLDIを採用するようになったといわれている。
◆一部メディアは、「危険な」LDI戦略により、英国年金基金が破綻の瀬戸際と書き立てたが、これに対しては英国の年金関係者からの反論が少なくない。英国年金基金にとって皮肉なのは、今回の危機で流動性に打撃はあったが、全般的な積立状況は改善したということである。英国が景気後退に陥ろうとしているときに、LDI戦略を放棄すれば企業成長を圧迫する可能性もある。市場の動向によっては、母体企業がさらなる資金を年金資産につぎ込む必要に迫られるという現実的なリスクがある。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
欧州経済見通し 家計主導の景況感悪化
製造業では駆け込み需要が下支え/英国では政治不安がリスクに
2026年05月27日
-
1-3月期ユーロ圏GDP 市場予想に反して減速
かろうじてプラス成長も、原油高の悪影響本格化の前から成長停滞
2026年05月01日
-
欧州経済見通し 進む資源高対応
財政支援と企業による価格転嫁
2026年04月21日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
超富裕層の株式譲渡所得への税率はミニマムタックス込みで最高35.63%に
2026年度税制改正大綱解説(3)富裕層課税(ミニマムタックス)
2026年02月09日
-
コーポレートガバナンス・コードの改訂案が公表
本質的な取組みと丁寧なエクスプレインが期待される
2026年04月27日
-
第229回日本経済予測
混迷する中東情勢、その先で問われる日本経済の構造転換①「持続的成長」の条件、②資産形成と成長の好循環、を検証
2026年05月25日
-
変革迫られる学校法人の資産運用
AOP対応は、少子化・インフレの荒波を乗り越えるための第一歩
2026年05月07日
-
日本経済見通し(2026年4月)
中東情勢緊迫による景気下振れリスク上昇で4月利上げは見送りか
2026年04月21日
超富裕層の株式譲渡所得への税率はミニマムタックス込みで最高35.63%に
2026年度税制改正大綱解説(3)富裕層課税(ミニマムタックス)
2026年02月09日
コーポレートガバナンス・コードの改訂案が公表
本質的な取組みと丁寧なエクスプレインが期待される
2026年04月27日
第229回日本経済予測
混迷する中東情勢、その先で問われる日本経済の構造転換①「持続的成長」の条件、②資産形成と成長の好循環、を検証
2026年05月25日
変革迫られる学校法人の資産運用
AOP対応は、少子化・インフレの荒波を乗り越えるための第一歩
2026年05月07日
日本経済見通し(2026年4月)
中東情勢緊迫による景気下振れリスク上昇で4月利上げは見送りか
2026年04月21日

