サマリー
◆5月9日はロシアの対独勝利77周年にあたり、その記念式典でウクライナ侵攻を「特別軍事作戦」から「戦争」に引き上げるべく、宣戦布告がなされるとの見方も出ていた。しかし、式典でロシアのプーチン大統領は主要な政策を発表はせず、侵攻を正当化するこれまでの主張を繰り返すに留まった。一方、式典の3日前の5月6日に、ウクライナのゼレンスキー大統領は英国王立国際問題研究所(チャタムハウス)のイベントでオンラインでの講演を行い、停戦交渉の再開条件や、ウクライナの主要戦略目標、さらに英国をはじめとする西側諸国に期待する支援などについて演説した。講演からは短期的に停戦が実現する可能性が低いことが示唆されている。
◆ロシアの莫大なエネルギー収益が戦費に使われているという危機感から、制裁措置としてのエネルギー禁輸の可能性は早くから取り沙汰されていた。ただEUにとって、経済への打撃や、制裁発動に加盟国の全会一致が必要などの理由から、エネルギー禁輸のハードルは高い。5月4日に制裁第6弾パッケージ案の一環として、石油輸入の年内禁止方針を発表した。ロシア産原油への依存度が高いハンガリーやスロバキア、チェコには猶予措置を提案したが、ハンガリーは同国におけるロシア産原油の輸入手段であるパイプラインによる原油輸入は禁輸の対象外にするよう求めるなど、妥協を拒んでいる。
◆欧州にとってロシアの化石燃料への依存脱却は、「If(可能性)」ではなく、「When(いつ)」という時間の問題に移っている。しかし、EUにとってエネルギー禁輸までの前途は多難である。既にロシアからのガス輸入依存が特に高いオーストリアとドイツは4月30日に、ガスの安定確保に向けた「早期警戒」を宣言している。ガスの供給が不足し、企業や市民に対するガス消費の抑制措置が機能しなければ、政府が介入し、配給制が導入されることになる。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
欧州経済見通し 関税議論が一段落
米国による対EUの追加関税率は15%で決着
2025年08月22日
-
4-6月期ユーロ圏GDP かろうじてプラス成長
ドイツ、イタリアがマイナス成長転換も、好調スペインが下支え
2025年07月31日
-
ドイツ経済低迷の背景と、低迷脱却に向けた政策転換
『大和総研調査季報』2025年夏季号(Vol.59)掲載
2025年07月24日
最新のレポート・コラム
-
KDD 2025(AI国際会議)出張報告:複数AIの協働と専門ツール統合が新潮流に
「AIエージェント」「時系列分析」「信頼できるAI」に注目
2025年09月03日
-
消費データブック(2025/9/2号)
個社データ・業界統計・JCB消費NOWから消費動向を先取り
2025年09月02日
-
2025年4-6月期法人企業統計と2次QE予測
トランプ関税等の影響で製造業は減益継続/2次QEはGDPの上方修正へ
2025年09月01日
-
企業価値担保権付き融資の引当等の考え方
将来情報・定性情報を適切に債務者区分・格付に反映
2025年09月01日
-
“タリフマン”トランプ大統領は“ピースメーカー”になれるか ~ ノーベル平和賞が欲しいという野望
2025年09月03日
よく読まれているリサーチレポート
-
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
-
のれんの償却・非償却に関する議論の展望
2025年07月07日
-
日本経済見通し:2025年7月
25年の賃上げは「広がり」の面でも改善/最低賃金の目安は6%程度か
2025年07月22日
-
対日相互関税率は15%で決着へ-実質GDPへの影響は短期で▲0.5%、中期で▲1.2%-
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.2%減少
2025年07月23日
-
新たな相互関税率の適用で日本の実質GDPは短期で0.8%、中期で1.9%減少
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.7%減少
2025年07月08日
2025年度の最低賃金は1,100円超へ
6%程度の引き上げが目安か/欧州型目標の扱いや地方での議論も注目
2025年07月16日
のれんの償却・非償却に関する議論の展望
2025年07月07日
日本経済見通し:2025年7月
25年の賃上げは「広がり」の面でも改善/最低賃金の目安は6%程度か
2025年07月22日
対日相互関税率は15%で決着へ-実質GDPへの影響は短期で▲0.5%、中期で▲1.2%-
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.2%減少
2025年07月23日
新たな相互関税率の適用で日本の実質GDPは短期で0.8%、中期で1.9%減少
相互関税以外の関税措置も含めると実質GDPは中期で3.7%減少
2025年07月08日