サマリー
◆ロシアは制裁によりインフレが加速し、通貨ルーブルは、(制裁発動直後に)過去最低の水準にまで下落した。ただしロシア中銀の機敏な対応に加え、懸念されていたデフォルト危機を3月16日に一旦回避したことで、状況が一変している。ロシア中銀の外貨確保による官製相場とみられていたが、自律的に通貨ルーブルの安定が確認できる流れが顕在化したため、中銀は4月8日に利下げや資本規制の緩和を発表した。
◆ロシア鉄道は、3月12日に、2026年満期のスイスフラン建て債券(2億5,000万スイスフラン)のユーロ債の利払いをルーブルで行ったため、4月1日にISDAのクレジットデリバティブ決定委員会(EMEA部門)に質問書が提出されていた。同社は、期日まで利払いを試みたが、4月11日に同決定委員会は、同スイスフラン建て債券をデフォルト認定した。さらに4月13日、同決定委員会は、先にルーブルで支払われたロシア国債が支払不履行の信用事由を引き起こしたかどうかについて、4月20日に再度協議することで合意した。同決定委員会が、信用事由が起きたと判断すれば、ロシア鉄道と同様にデフォルトの認定が下され、ロシア国債に対するCDSの補償金の支払いが開始されることになる。
◆プーチン大統領は友好国、とりわけアジアへのエネルギー輸出を加速させる方針を示しており、決済通貨においても(ドルやユーロだけでなく)双方の自国通貨で決済可能とするなど、新たな姿勢を見せ始めている。世界のエネルギー貿易の構造変化などを理由に、決済通貨のドル離れが加速し、海外投資家(特に中東や東南アジアなどのソブリン・ウエルス・ファンド等)が米国債やユーロ圏国債の保有を敬遠するようになれば、基軸通貨としての地位は加速度的に危うくなる。対ロシア制裁の副作用は、エネルギー価格高騰を受けた生活苦に直面する国民が急増することだけでなく、基軸通貨としてのドルやユーロの地位が低下することに、多くの国が気づいたことにあるともいえるだろう。
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