サマリー
◆ロシアのウクライナ侵攻に対し、西側諸国はかつてない規模の経済・金融制裁措置を発動している。ロシア主要銀行をSWIFTから排除し、ハイテク製品の対ロシア輸出を禁止するといった直近の制裁は、多国間で協調され、またこれまでにない速度で発動された措置である。地政学的な状況がさらに悪化すれば、欧米はロシアのドルやユーロへのアクセスをさらに制限し、既存のロシア国債の流通制限、ロシアからのエネルギー輸入を禁止するなど、さらに劇的な措置をとる余地が残されている。
◆SWIFTからの排除では、既に国際的な制裁対象となっていた企業・銀行がまず対象となり、その後も対象が拡大されると考えられる。ただし西側諸国は当面、的を絞った制裁発動のアプローチをとっているため、しばらくは貿易決済できる余地が残されており、欧州のロシアからのエネルギー輸入には影響が出ないとみられている。米国側は今回の措置は「イラン方式」であると評し、対イラン制裁時と同様にエネルギーの貿易決済には支障が生じない可能性を示唆している。
◆西側諸国の制裁により、ロシア経済の孤立が強まる中、ロシア中銀は2月28日に政策金利を倍以上に引上げた。ロシア中銀総裁は制裁措置によって、急落するルーブル防衛に向けた外貨売却が不可能になったと認めている。決済機関のユーロクリアとクリアストリームは決済通貨としてのルーブル受け入れ停止を決定した。そのため、事実上、ルーブル建て債券を保有する外国人投資家のポジション解消方法はほぼ消滅し、塩漬けを余儀無くされる状況である。ロシア政府は、対外債務返済を通貨ルーブルのみで一時的に認めているにすぎず、海外債権者がどう反応するかは未知数である。ロシア国債の利払い期限である3月16日に選択的債務不履行(セレクティブ・デフォルト)に陥る可能性が高いことが指摘されている。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
4-6月期ユーロ圏GDP かろうじてプラス成長
ドイツ、イタリアがマイナス成長転換も、好調スペインが下支え
2025年07月31日
-
ドイツ経済低迷の背景と、低迷脱却に向けた政策転換
『大和総研調査季報』2025年夏季号(Vol.59)掲載
2025年07月24日
-
欧州経済見通し 輸出環境が一段と悪化
米国の追加関税率は30%に引き上げへ、ユーロ高も輸出の重荷に
2025年07月22日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
-
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
-
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日
第225回日本経済予測(改訂版)
人口減少下の日本、持続的成長への道筋①成長力強化、②社会保障制度改革、③財政健全化、を検証
2025年06月09日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
「トランプ2.0」、外国企業への「報復課税」?
Section 899(案)、米国に投資する日本企業にもダメージの可能性有
2025年06月13日
日本経済見通し:2025年5月
経済見通しを改訂/景気回復を見込むもトランプ関税などに警戒
2025年05月23日
信用リスク・アセットの算出手法の見直し(確定版)
国際行等は24年3月期、内部モデルを用いない国内行は25年3月期から適用
2022年07月04日