サマリー
◆国際社会でロシアによるウクライナへの全面的な侵攻への懸念が高まっている。そもそも今回、西側諸国とロシアとの緊張が高まった発端は、2019年にウクライナ大統領に選出されたゼレンスキー氏が、ミンスク合意を反故にしようとしたことといわれている。元コメディー俳優で国政経験のないゼレンスキー大統領は、ドンバス戦争の終結とオリガルヒの汚職・腐敗によるウクライナ国家への影響を阻止することを公約に掲げて当選した。2024年の大統領選再選の鍵は、分離独立派が支配する東部地域停戦地域であるルガンスク州・ドネツク州でどのようなパフォーマンスを示せるかだといわれていた。
◆クリミア併合時にロシア軍との戦闘で大敗を喫したウクライナは、不利な条件でミンスク合意を結ばされたとの思いが強い。ミンスク合意がある限り、ドンバス地方で選挙を実施し、高度な自治権を認めざるを得ず、分離独立に法的根拠が生じてしまう。これを嫌うゼレンスキー政権は2021年にかけてミンスク合意を反故にすべく、尽力してきた。米国を中心とした西側諸国の支持を得るため、国政の汚職一掃など、西側の要求を満たそうとしてきた。ただ汚職一掃や一連のクリミア半島奪還のアピールもむなしく、ゼレンスキー大統領の8月末の訪米では、ドンバス地方奪還に向けたミンスク合意反故への支持やクリミア半島を奪還することへの支援は、バイデン大統領から得られなかった。
◆ロシアはウクライナに重機を伴う進軍をするための最適な地上条件が来るのを待っているといわれている。地面が凍結し、ロシアがウクライナ北部から攻め込めるようになったら、侵攻に踏み切る可能性がある。ロシアの侵攻が近いという米国の懸念に対し、(大統領選対策で始めたドンバス地方への攻撃が引き起こした)事の重大性に気が付いたゼレンスキー大統領は、火消しに奔走している。ただし英米は、ここまでロシアとの対立を煽っておきながら、戦争間近との見方を過剰反応と批判したゼレンスキー大統領へ違和感を示しているのが実情である。
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