サマリー
◆英国政府はブレグジット後に獲得したEU規制からの解放をフルに活用した、金融規制の改革に意欲を燃やしている。スナーク財務相は7月1日にマンションハウスで、ブレグジット後の英国金融サービスに関する新たな方向性を示す一連の改革案について講演した。改革案はMiFID2やソルベンシー2などのEU規制に加え、上場規則の刷新や、年金改革、株・債券・商品取引、保険会社に関するルールなど多岐にわたる。英国が金融ハブとしての競争力を維持するためにも、現在、(膨大な改正案に対して)金融サービス業界を対象に異例ともいえる数のコンサルテーションが実施されている。
◆今回の金融規制改革案の中で特に注目されているのは、MiFID2の改正であろう。金融危機後の金融市場に対する信頼性の回復を目的としたMiFID2だが、あまりにも規範的で非効率になり、市場が受ける恩恵が限られているとの不満が出ていた。MiFID2の改正案で最も注目されているのは、リサーチ費用のアンバンドリングにおいて、中小企業(SME)および債券・為替、コモディティ(FICC)のリサーチを影響力の少ない非金銭的利益(MNMB)へ移行させ、事実上ソフトダラーのリサーチ(バンドリング)に戻すことである。
◆ただ今回の一連の金融規制の改正案では、英国金融市場を魅力的にする変化は起きないという見方が優勢となっている。そもそも、英国とEUとは2021年3月末に、金融サービス規制面での協力に向けた協議の場に関する覚書に合意していた。ただし、英国がEU規制からの乖離を明言していることもあり、今後も英国での同等性評価獲得は極めて難しく、一時的な同等性が失効する2022年6月末にデリバティブ取引のさらなる移動が予想されている。来年度以降に起こる金融街シティの本当の地盤沈下に備え、英国に拠点のある投資銀行の多くは人員異動を加速させている。新型コロナウイルス(の大流行と制限措置によって英国に閉じ込められたこと)がむしろ欧州出身者である銀行幹部のシティ脱出を促進したという。規制や税制以外の理由も重なり、欧州出身者のシティからの流出に拍車をかけている。
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