サマリー
◆移行期間終了まであと1週間に迫った2020年12月24日、英国とEUはついに、通商協定を含む将来的な関係性を巡る交渉で合意した。ただし、金融サービスは協定交渉の対象外であり、金融セクターは実質的な合意なき離脱に突入している。2021年1月4日は英国がEU単一市場を離脱して初めての証券取引所の発会となった日であるが、シティでのEU企業のユーロ建て株式取引の大半が、フランクフルトやアムステルダムといったEU域内の取引所に一斉に移っている。移動は予想されていたものの、一夜にしての変化の大きさはシティの金融市場関係者の驚きを招いた。
◆今後は2021年3月までに金融サービス分野における規制面での協力についてEUとの覚書締結を目指している。ただし、これがEUからの同等性評価付与を保証するわけではない。どのような覚書が締結されたとしても、EU市場への最低限のアクセスを提供する程度であり、それよりも双方の規制当局が国内での決定事項に関し、情報交換するための方法を確立するにとどまる可能性が高いとみられている。今後は多くの分野で規制の乖離が急速に進むと考えられており、同等性評価付与はさらに難しくなるとの懸念もある。
◆英国政府はブレグジットによるEU規制からの解放を契機に、規制緩和や規制上の負荷軽減を図る意向を示している。もともとシティのホールセール事業のうち、英国顧客によるものは半分にも満たない。金融ハブとしてシティが繁栄したのは、自国通貨のポンドではなくドルやユーロ建ての金融商品を外国人が取引するオフショア市場のプレイグラウンドとして発展した経緯がある。シティは場所とルールを提供するものの、プレイヤーと資金は他の場所からやってくる、いわゆるウィンブルドン現象の中心地であった。ただ今後は、初めて金融サービスのシェアの縮小に直面することになるため、これまで存在していなかった摩擦が生じることには違いはない。
このコンテンツの著作権は、株式会社大和総研に帰属します。著作権法上、転載、翻案、翻訳、要約等は、大和総研の許諾が必要です。大和総研の許諾がない転載、翻案、翻訳、要約、および法令に従わない引用等は、違法行為です。著作権侵害等の行為には、法的手続きを行うこともあります。また、掲載されている執筆者の所属・肩書きは現時点のものとなります。
同じカテゴリの最新レポート
-
1-3月期ユーロ圏GDP 成長ペースは再加速
市場予想を上回る良好な結果、ただし先行きは減速へ
2025年05月01日
-
欧州経済見通し 相互関税で悲観が広がる
対米輸出の低迷に加え、対中輸出減・輸入増も懸念材料
2025年04月23日
-
欧州経済見通し 「トランプ」が欧州連帯を促す
貿易摩擦激化の可能性が高まる一方、国防費の増加議論が急展開
2025年03月21日
最新のレポート・コラム
よく読まれているリサーチレポート
-
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
-
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
-
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
-
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
-
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日
トランプ関税で日本経済は「漁夫の利」を得られるか?
広範な関税措置となっても代替需要の取り込みで悪影響が緩和
2025年03月03日
地方創生のカギとなる非製造業の生産性向上には何が必要か?
業種ごとの課題に応じたきめ細かい支援策の組み合わせが重要
2025年03月12日
中国:全人代2025・政府活動報告を読み解く
各種「特別」債で金融リスク低減と内需拡大を狙う
2025年03月06日
中国:2025年と今後10年の長期経済見通し
25年:2つの前倒しの反動。長期:総需要減少と過剰投資・債務問題
2025年01月23日
2025年の日本経済見通し
1%台半ばのプラス成長を見込むも「トランプ2.0」で不確実性大きい
2024年12月20日